第四十八話 全体を把握する

何をするにしても同じだと思いますが、各部の技術を習得するというノウハウは必要な事です。しかしながら、それだけでは十分では無いと思います。各部のノウハウの前に、全体を把握して、自分がどこに居て、どこに向かうのか、ヨットはどんな物でどういう運用をしていくのか、そういう全体像を持っていた方が良いと思います。ひょっとすると、各部の細かい技術より、この方がもっと重要かもしれないとも思います。

ちょっと気晴らしにヨットに乗る。その程度なら、たいして難しい事を考える必要も無いと思いますが、何十年と続けていく為には、ヨットを本当に堪能したいのなら、単なる気晴らし程度気分では続きません。いや、そういう気分転換的レジャーなら、もっとキャビンを有効利用できるように考えた方が良い。家族や仲間に対するエンターテインメントなら、キャビンの有効利用はかかせないと思います。或いは、エンターテインメントより、ヨットを面白く、堪能するのが主ならば、セーリングを有効利用し、もっと奥に入っていく必要がある。

ヨットはキャビンとセールを持っています。その大きさや性能はともかく、どんな使い方をするか、どちらを主体にするか? 両方と、思われるでしょうが、自然にどちらかが主になる。キャビン主体のエンターテインメントを考えるなら、セーリングはそこそこ、とりあえずマリーナを出て、行きたい方角へ行って、帰ってくる。それさえできればOKでしょう。後は、キャビンの有効活用を考えた方が
良いと思います。どうやって、快適に、楽しく過ごせるかを、しかも気楽にできるかを考えた方が良いと思います。子供達を遊ばせる。釣りをする。キャンプ気分を味あわせる。泊まる。みんなで食事を作ったり、星空を眺めたり、大人を楽しませる方法や、別世界を味わう方法を考えた方が良い。キャビン、キャビンと言うなら、キャビンをもっと楽しく使える方法を考えないのは片手落ち。空間を快適に過ごせるようにハードは誰でも考えるが、それを使うソフトは誰も考えない。だから、使えない。エンターテインメントとして、ヨットを使うなら、セーリングはそこそこでも良い。キャビンに対するソフトを考えましょう。どうやったら、楽しいか。しかも、年に1度では無く、しょっちゅう使えるカジュアルな使い方をベースに、自分なりの楽しみ方を演出して下さい。それが面白いのなら、それで良いわけです。そういうソフトが無いから、キャビンを使えなくなりますし、セーリングもそこそこですからヨットそのものが使えなくなる。欧米人はこのキャビンを使うソフトが自然に身についていると思いますね。

ヨットのもうひとつの能力はセーリングです。セーリングが主と考えるなら、セーリングの演出を考える必要があります。キャビンが主の人と同じように乗っていたのでは、その面白さも深くはならない。ただ、動けば良いという程度では、誰もがすぐに飽きてしまいます。たかがヨットと思われるかもしれませんが、キャビンにしても、セーリングにしても、たった1回ならどんな使い方でも楽しめますが、或いは1年だけなら使える。でも、来年も、再来年も、5年も10年もそこにあるとしたら、車のように日常につかえない物だけに、工夫が必要になる。それがソフトだと思います。そのソフトは
ひとつひとつのノウハウでは無く、全体の運用の仕方にあると思います。向かう方向決めになると思います。

日本人はキャビンを使うのが上手では無いと以前書きました。それはソフトを考えないからか、国民性か解りませんが、ヨットを出さずに、1日中コクピットでゆったりと読書している人は見た事ないし、ゆったり過ごしている人を見た事が無い。キャビンに居る時はみんなを招待して、宴会している時ぐらい、こういうのはしょっちゅうはできない。それで、日常のキャビン使用ソフトが必要になるのですが、どうもこういうのは日本人には合わないと思っています。キャビンをしょっちゅう使える方法は、何でも無い日常の事をキャビンでするという事ができるかどうかになると思います。つまり、ヨットで読書を1日中楽しめて、それがしょっちゅうできる人は、キャビンを楽しめる。キャビンを使うのに特別なイベントが必要なら、しょっちゅうキャビンを使うという事はできません。

それで、セーリングという遊びを主体にしたら良いと、日本人にはこの方が合うと思っています。それで、ヨットのセーリングを主にして、その全体像を把握する。細かい艤装品の役目や使い方などはその後でいい。あらためて、そういうところから入っていきたいと思います。それはセーリングのテクニックでは無く、セーリングに対するソフトです。このソフトをしっかり掴んでおく事が重要なのではないかと思う次第です。

これから長い期間、ヨットに付き合っていこうとする方々が、ただ漫然と所有するだけでは、ヨットは遊べなくなります。最初の1シーズンか2シーズンが関の山。10年遊ぶには、10年遊べるだけのソフトが必要です。テクニックではありません。そんなんじゃ、遊ぶのも大変だ、という事になりますが、それだけの恩恵にあずかる事ができます。それでは、次ページから、考えていきたいと思います。

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