第九十七話 乗りこなす感覚

ヨットオーナーなら誰でも自分のヨットを自由自在に乗りこなせたらなあ、と思われる
と思います。一応のセーリングはできる。でも、乗りこなすという感覚にはもう一歩前
へ進まなければなりません。

ヨットには移動という要素とセーリングという要素があり、セーリングには乗りこなす
という感覚が究極の楽しさを与えてくれると思います。良い構造とか、良い素材という
のは、結局それだけでは何ら意味を持たない。でも、それらが合わさって、良い感覚
をもたらせてくれるのであれば、おおいに意味がある事になります。そして、これらの
特徴がオーナーを大いに助けてくれます。乗りこなすを助けてくれる。

波に対して柔らかい船型をしていると、波に叩かずソフトな乗り心地になります。言葉
で言えばそれだけなのですが、実際に走って見ますと、その有難さは実に違う。ソフト
だと体が疲れない。疲れないのは楽だけでは無く、体に余裕ができる。体の動きに余
裕を与えてくれますので、その分動けます。必死になって体を支えているのと、楽に
動けるとではぜんぜん違ってきます。それは大変から、楽しいに変わる。

重心が低いヨットで走りますと、風が強まってきた時、大変だと風を逃がすとか、考える
のでは無く、もっと走って面白くなるという感覚が出てくる。船体がどっしりした感覚とい
うのはそれだけ気持ちを楽にさせてくれる。吹くと面白い、そういう感覚になります。

乗りこなすには、どんなヨットでも腕を上げれば良いんでしょうが、良いヨットに乗ると
ヨットがオーナーを助けてくれます。それが気持ちの余裕になり、体の余裕になる。それ
でトータルで風や波に対するキャパシティーが大きくなり、体と気持ちの余裕は、さらに
ヨットの操船に対していろんな事ができます。する余裕がある。その余裕があるので、
乗りこなすという感覚に比較的に早く到達できるのではないかと思います。これらの要素
に加えて、オーナーの経験ですね。これは練習が必要ですが、面白い練習です。

同じ海域を、同じ条件下で走って、余裕のある場合と無い場合とでは全然違ってくるで
しょう。ちょっと吹いただけでしんどそうだなと思うのと、今日は面白いセーリングになりそ
うだというのとでは全然違います。

とりあえず上りで真っ直ぐ走る。海面の所々に波立ちが見える。そこに突っ込むと風速
が上がるので、ヨットは風上に切りあがる。そのままでは真っ直ぐは走れない。そこで
風下に舵を切れば真っ直ぐ走れる。でも、舵は水流に対して大きく角度をとっていますから
かなり抵抗となっている。そこで、こういうブローに入るタイミングで風をその分逃がしてやる
舵は切らないので抵抗は増えない。すると、船体は同じヒール角度でブローを抜けていく。
どのタイミングで、どうやって、どのくらい逃がせば良いか。ブローもいろいろですから、その
度に感覚を掴む。風がシフトすると、もっと昇れたり、或いは落としたり。セールに裏風が入
らないように注意しながら、舵を操作する。おまけに波もあるので、どういう舵の取り方をする
のが良いか、波にぶち当たるとスピードが落ちるので、加速する為に角度を少し落とす。それ
にあわせてセールも操作、加速したらもっと上らせる。それにセールも合わせる。

ただ、真っ直ぐ走るだけでも、いろんな事をしようと思えばする事はある。したくないなら、その
ままでも構わない。でも、する事が快感になるし、うまく、きれいに走れれば気持ちの良いもん
です。これ、ただ、良い風吹いてたまたま快走できても、何もしないでたまたまそうなるより、
自分で合わせて快走できると面白くなります。

タックする時も舵を切るタイミング、速さ、角度、それに対するセールのかえしなど、全てがタイ
ミング良く行きますと、ウィンチを巻くのも少なくて済む。スピードロスも少ない。これが言葉で
言う程簡単では無い。シートが引っかかったり、舵きりすぎたり、シートの出すタイミングと引き
込むタイミングなど、いろいろあります。これがスムースだと気持ちが良いです。

こうやって、いろいろやって徐々にうまくいくと、それが良い感じに繋がります。良い感じを掴んで
いくと、いつも良い感じで走りたくなる。それが、さらに良い感じを与えてくれる事になると思います
そして。右に左に、自由自在に滑らかに走れるようになる。と言っても一朝一夕にはいきません。
だから面白い。こんな事を毎回やっても、条件がいつも違うので、うまくいったりいかなかったり。
でも、確実にうまくなってきているのが自分で解る。だんだん、頭を使わずとも、体で解るように
なってくる。そうすると、感覚はもっと受け取る量が多くなるので、面白いんですね。

うまい人はバタバタ動かない。最小限の動きで、しかもスムースで、省エネタイプでしょう。慣れると
次にどうなるかも予想がついてくる。ですから、余計余裕できれいに走れる。乗りこなすと、実に
格好良いのです。ヨットの大きさや豪華さでは無く、乗りこなすオーナーはカッコイイ。あこがれます

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