第七十四話 中間層

どこの世界も価格と品質が叫ばれます。品質が良いのが良いに決まっている。
誰でも品質の良い物を望んでいます。ただ、その品質をどこまで求めるかです。
超高級、ハイテク素材、熟練職人の手造り、こんなのは良いでしょうが、そこまで
行きますと価格的に手が出ない。ほんの一部の方々の為のヨットになってしまい
ます。この事は年間生産量に明確に現れています。5,6年前だったでしょうか、
ヒンクリーやアルデンは年間10艇以下、スワンは30艇、そんな話でした。少量
生産だから高いと言う見方もあるかもしれませんが、逆に手を入れるから少量し
か造れないという見方もできます。それとマーケットの需要もある。

日本には大量生産艇が多く入ってきていますが、これは世界も同じ、安ければ
需要も広がります。少量生産艇も大量生産艇も、その分野では細かな違いはあ
っても、まあ差ほど大きくは違わない。好みで選んでも良いのかなと思います。

それで、この両者の間に中間層があります。ここがちょっとバラエティーに富む。
品質においてバラエティーですし、価格もそれに応じている。そこで、品質をどこ
まで求めるかの選びがいのある層ではないかと思います。

品質には船体の頑丈さという面もあれば、凝った造りという面もあります。中間
層は船体強度、見えない部分を少しづつ段階的に強くしていき、そして凝った部
分を少しづつ加えていく。船体は前にも言いました構造と工法で、どこまでやる
かは造船所によって異なります。そして凝った部分は、例えば、内装木材にカーブ
を持たせたり、厚いニス塗りだったり、直接的にはセーリングには関係無いかも
しれませんが、ヨットは船体が全てではありませんので、重要なファクターでもある
と思います。但し、どちらが先かと言えば、強度でしょう。でも、強度100で凝った
部分0というのは無いので、そのバランスが異なります。その最もバラエティーに
富んだ層が中間層と言えると思います。

強度においては、ストリンガーの船底への積層、バルクヘッドのデッキと船底への
積層、パテによる接着では無く積層したものをお奨めしています。まあ、これは
最低限だと思っているんですが。さらに行くと、船内の家具を全て船底に積層して
いるものもありますし、ストリンガーもモールドで造るのでは無く、1本づつ作成して
そのストリンガー全体を積層接着しているヨットもあります。もちろん、この方が接着
力は強いわけですから当然良いわけです。外洋の時化、高寿命につながります。
ヨットが受けるストレスは半端じゃない。そこに置いておくだけでも、マストが立って
いる限り、フォアステー、バックステー、サイドステー、こういうワイヤーですごい力で
常にストレスがかかっています。それに波と風が加わるんですから、もの凄いストレ
スがかかる事は容易に想像できます。ならば、船体が硬いとか、頑丈だとか言う事
がどれ程重要かも解ると思います。セーリングしていてもその違いが解ります。
船体がねじれるか硬いか、帆走のフィーリングにもかかわってくる。ヨットは高級で
ある必要性、凝った部分は好みの問題ですから、それ程問題では無いと思いますが
船体だけは重要視したいと思います。ですから、構造と工法は押えていただきたいと
思います。安全性やトラブルの減少や、セーリングのドライブ感が違います。一生に
何回も買う物では無いと思いますが、だからこそ良い物を手に入れて頂きたいと思う
わけです。

日本では下の層か、或いはトップの層しか見ない傾向にあります。実はその中間に
面白いのがたくさんあります。

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