第七十二話 ヨットライフ

我々にとって、ヨットというのはどんな存在なのでしょうか?ヨットはどんな位置にあるのか
そう考えた時、ちょっとアンバランスな面を感じます。

ヨットは素晴らしいものだし、自然を利用して、どこにでもいける。しかも極めて安全でも
ある。優雅さ、勇猛さ、いろんな形容もされますが、現実の生活の中において、ヨットは
どんなものであり、最も楽しむ方法はどんなのか、それを考えますと、どうも違和感も多少
は出てきます。

まるで今にも世界一周でもできるような装備、ヘビーなヨットで、重装備、或いは、広さ
以外は殆どマイホームに居るような充実装備、こういう場合、ああいう場合に備えて、
あれも、これも設置、それが今のヨットです。セーリング面においても、簡単に操作ができ
るようにいろんな装備が設置されます。もちろん、必要な物は必要ですが、ちょっとヨット
から離れて見てみますと、実際、これだけの装備が本当に必要なのだろうかと思う事も
あります。いろんな装備がついているので、そのひとつひとつを使いこなすには、どんどん
使わないと覚えられない。これ、スイッチはどこだっけ、バルブは?このロープ引いて、こっ
ちをリリースして、云々。全部を使いこなすには、覚えるにはかなり乗って使う必要がある。

装備が多ければ便利なのは解ります。でも、実際、それらを全部把握できる程、暇がある
んでしょうか?しょっちゅう来てるんなら、覚えられますが、そうでもなければ、出航するのに
時間がかかり、セール上げて帆走するのに時間がかかり、何でも時間がかかる。それに、
これ、どうするんだっけ?ときた日にゃ、ますます大変です。ヘビー過ぎるんです。これから
毎日マリーナに来て、或いは、何ヶ月も航海の旅に出る。そういう場合は良いでしょう。でも、
あまり時間の無い人が、こういうヘビーな装備をすると、ますます大変ではないかと思うので
す。それに、久しぶりに来てみたら、動かないなんて事も出てきます。こんなヘビーなセーリ
ングをするより、もっと気軽なセーリングをお奨めします。キャビンには不要な物が、一度
しか使わなかった物がやまのようにあり、同じ物をまた買ってもってくるという事もある。
トラブルがあって、ちょっと点検しようと思ったら、荷物が一杯で嫌になる。点検する気もそが
れてしまう。世界一周するなら、ヘビーな装備もヘビーな荷物も解りますが、日常なら、もっと
気軽に、ライト級でいきましょう。マリーナに来たら、ぱっともやいとって、縦横無尽にセーリ
ングを楽しんで、帰ってくる。

いつからか、ヨットにはドジャーが増えてきた。ビミニトップも増えてきた。最近ではメインファー
ラーも多い。キャビンに入ると、大きなギャレーに電子レンジ、お湯だって出ます。テレビがあっ
て、ステレオがあって、冷蔵庫があって、電動トイレに温水シャワー、発電機にエアコンまである。
これらがいけないと言っているのではありません。あまり積み込むとヘビーになる、重さの問題
では無く、気持ちの問題です。あればあるほど便利ですが、それ相応のメインテナンスも必要に
なります。今の流れはもっと何か便利な物はないか?と探しています。販売する方も同じです。
何かもっと売れる物はないか?それを使って、皆さんが快適にヨットライフを満喫していただける
のなら大賛成ですが、あれば便利を頭で思い、実際は気持ちがヘビーになっていませんか?と
いう事です。

何度も言いますが、世界一周とまでは言わないものの、日本一周や遠くへいつでも行ける状態で
日常にのるのはヘビーなんです。もっとシンプルに、気軽にヨットライフを過ごしてみるというのは
どうでしょうか?気持ちがぐんと楽になる。楽になればもっとマリーナに来れる。マリーナに来れば
気軽にセーリングを楽しめる。

忙しい人々、暇はあるけどヨット以外にもいろいろやりたい人、そんな方々には気軽が最も大切
ではないでしょうか。そんなヨットライフをお奨めします。シンプルの代わりに不便があるかもしれ
ません。でも、それを楽しむ事ができたら、どんなにヨットが楽しくなるか。工夫する事に楽しさも
生まれる。キャンピングカーの便利さよりもスポーツカーの快適さ、そういう考え方もあって良い
と思うのですが、いかがでしょうか?そういう装備の予算があるなら、ワンクラス上のヨットを手に
入れた方がもっと面白くなると思うのですが。

何も要らないと言っているわけではありません。でも、できるだけシンプルな方が気軽ではないだ
ろうかと思うだけです。シンプルで良いと思えるようになった時。最も楽しめるのではないかと思う
のですが、いかがでしょうか。ただ、セーリングは充実させたいと思います。あれば便利というより、
あればもっと面白くなるというのはほしいですね。

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