第六十三話 素材

構造と工法について書きましたが、それがちゃんとしていて、さらに品質を上げるのが
素材です。もちろん、それでなければならないという事は無く、であればもっと良いとい
うだけで、どこまで追求するかはオーナー次第という事になります。

構造と工法をきちんと抑えておけば、後は造船所によって、価値をもっと高める為に
他社との差別化の為に素材を持ってくる場合があります。もちろん、その効果はある
わけで、後はお客様がそれを求めるかどうかになります。

樹脂の話もしました。ポリエステル、ビニルエステル、エポキシです。殆どの多くがポリ
エステルを使っています。ですからそれで良いのです。問題はありません。ただ、ビニル
エステルにしますと水分の吸収が少なくなる。水分を吸収しますと重くなる。それに積層
に気泡があると(全く無いというのは無い)オスモーシスを引き起こしかねない。それで
水分の吸収率が低い方が良いわけです。今では船底塗装の前にエポキシを塗って、
船底塗装をする事もあります。

マストには最近カーボンというのが出ていますが、これも非常に軽いので、びっくりする
ぐらい軽いし、強度もあるので良いのですが、従来のアルミでも全く問題は無いでしょう。
セールもダクロンだけでは無く、ケブラーやカーボンも、その他も出てきましたが、これも
ダクロンで悪い事は無いわけです。ウィンチやブロック、その他の部類も各メーカーの
グレードはあるでしょうが、まあ、取り替えられるものでもあります。

イタリアのコマー社ではステンレスを全て316にしています。キールボルト、パルピット、
ステンレスは全て316です。それで何が良いかと言いますと、より錆びにくい。良く、パル
ピットが茶色にところどころ変色しているのがありますが、あれは飛び錆びと言って、外部
から来たのがくっつくのですが、316はそれが少ない。つまりあまり掃除しなくてもきれい
です。多分スワンもそうじゃないかと思いますね、ほっといても茶色にあまりならなかった。
日本ではこの316はありますが、磨いた物が無い。それは需要が少ないからだそうです。
それで316を使うと別途磨きに出さなければならなくなる。

材木でも同じチークでも品質が異なる。追求すればきりがありませんが、良い物は良い事
は確かです。それはそれとして、構造、工法、機器類の設置でもどうやって設置するかに
も造船所のレベルがある。それはできないのでは無く、するかしないかの違いだと思います
それで、我々業者が理解し、お客様に納得してご購入頂く事が必要になります。それを
判断するうえで、構造と工法がまず来て、その次に求めるなら素材かなと思います。
これらはそのヨットが持つコンセプトにも関係してくると思います。

確かに価格は重要な要素ですが、構造や工法、素材なんかも吟味の対象にして頂きたい
と思います。何も高いヨットでなければならないとは言いませんが、使う用途などによっても
選択が変わろうと思います。それを押さえた上で、デザインや艤装の配置など、を考えて
いただければと思います。個人的にはですが、ステンレスが全て316とか、ニスが何十回
塗装されているとかも良いのですが、やはり構造と工法が納得できれば、後は好み次第
予算次第でいいかなと思います。でも、これを犠牲にして大きなサイズより、サイズを落とし
てでも構造と工法かなと思います。

次へ     目次へ