第六十話 サイズから品質へ

これまではサイズ重視でした。大きくなればなる程良いと思ってきました。しかし、
これからは品質重視にしたらどうでしょうか。目に見えるサイズを追うのは簡単
ですが、簡単に見えない品質を見るのは難しいですが、その価値は充分にあります。

構造には造船所にとって造り易い構造と、強度的に強い構造は別です。船体は
厚みが厚いか薄いかだけでは無く、ストリンガーの設置の仕方にもよります。
ハルを積層したら、船底にストリンガーを設置する。これを積層するのと、パテで
接着するのとでは全く異なる。バルクヘッドは船体強度にとって重要な役目をしま
すが、ただ差し込んで接着だけのもあるし、船底とデッキに接合してあるのもあり
ます。ハルとデッキの接合をタッピングでとめているのもあるし、ボルトナットという
のもある。

きちんとした構造のうえに、職人がきちんと造る。そのうえに材質が次に来る。
ステンレスでもいろいろあります。樹脂も、パテも、グラスもいろいろある。もちろん
全てにおいて良いのが良いが価格も高くなるので、一番は構造と工法、そして、
材質、最後にデザイン。もちろん、これらはバランスが取れているもので、最高の
材質に最低の工法はありえない。そんな事はしません。

デザインは船型やセールプランを造りますが、一般的に言って、具体的な工法は
造船所まかせです。それを全てモールドを使って建造するのと、職人が造るハンド
メイドとは品質が全く違う。ただ価格に反映しますので、そこは造船所によって、
価格バランスを見ながら建造します。ただ、ふたつ上げますが、バルクヘッドは
やはり船底とデッキにラミネート接合してもらいたいし、床下のストリンガーはたとえ
モールドで造ったとしても、これも積層してもらいたい。ハルとデッキの接合はボルト
ナットを使ってもらいたいです。

船型デザインはスピード重視か乗り心地重視かにもよりますので、必ずしもこうある
べきというのは無いのですが、いずれにしても船体品質に大きく影響されます。それ
で良い品質のヨットになりますと、何が違うと言って、フィーリングが違う。ハルの柔ら
かいヨットより堅いヨットの方が安心なのです。これは乗り比べてわかる事と思います
昔、昔ですが、あるボートに乗った。こんなもんかと思っていたのが、その後、良い
ボートに乗ると、前に乗ったのはもう怖くて乗れない。それ程違う。もちろん、凪の時
はそれ程ではありませんが。そして、トラブルも少ない。

これからはサイズを追っかけるのでは無く、品質を追っかけましょう。高品質になれ
ばなるほど高価にはなりますが、そこは価格のバランスを見て、妥協する事もあるで
しょうが、ちょっとサイズ落としてでも、品質を高めるという意味は大きいと思います。
まあ、これはヨットに限らず何でもそうです。それがヨットのように、波のある、風のある
所で乗るという状況では、もっと物を言うことになります。ブランドバッグがしっかりして
る程度ではありません。いくら高品質の自動車と言っても、舗装道路を走る車とはまた
次元が違う。

そりゃ、スワンは良いヨットです。ヒンクリーも、アルデンも良い。でも彼らは別格としても
世界には他にも良いヨットがたくさんあります。ゼロか100を見るのでは無く、その間に
もたくさんの良いヨットがありますので、勉強していただきたいし、見る目を養っていただ
きたいと思います。

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