第五十二話 ヨット業者

日本にヨット業者が何社あるかは知りませんが、市場の割には多すぎる?
それはどうか解りませんが、今残ってる業者はバブルを乗り越え、この長い
不況にも耐えてきたのですから、皆さん本気でやってます。バブル時の参入
者とは違うでしょう。

ヨットは特殊な乗り物、特殊というのは一般的に広がっては居ないので、一
般的ではない、イコール特殊という意味です。別にヨット自体は特別な物で
は無いと思っています。特殊なだけに、経験が必要です。経験とは過去に
おける失敗と成功経験です。特に失敗はおおいに勉強になってくる。単純
に右から左に売れるのなら、一般の方々が詳しいなら、たいした知識は不要
ですが、まだその域では無いようです。

私も数々の失敗をしてきました。昔はパワーボートも扱っておりましたが、トロ
ーラーというタイプのボートで、船底に長いキールがある。本来は12,13ノット
ぐらいで走るのですが、よくある話でスピードをもっと上げたいと言われ、でかい
エンジンを2基掛けにするという話を造船所に要求しました。後で考えると造船
所もいい加減なもので、即OKを出した。物理的に載るならOKだったのでしょう。
これが実際走ってみると大変でした。確かに直線ではスピードは出たものの、
カーブする時、通常はカーブの内側に傾斜して走るのですが、キールがあった
為、遠心力で外側に大きく傾斜して、あわやひっくり返るかと思った次第です。
こういうトローラーに大きなエンジンを載せてはいけない。この時はじめて知り
ました。知らないというのは恐ろしい事です。この時学んだのはこれだけでは
ありません。造船所ですが、何でも即OKする造船所は信用ならない。良い造船
所は、駄目な物は駄目と言います。お客様が何回言っても、駄目と言います。
かつて、あるお客様から、少しは俺の言う事を聞いいたらどうだ、と怒られた。
それでも、造船所はノーでした。間に入った私の困った事、想像できるでしょう?
でも、完成して、オーナーに引渡し、それから数ヵ月後、オーナーから一通の手紙
を頂きました。内容は絶賛の手紙でした。造船所はブランドを守る為に、ノーと
言う場合があります。この造船所も、必ず満足させるから、とにかくオーナーを
なだめてくれ、そう言っていたのを思い出しました。

業者はそれぞれの経験をしています。時には他の業者と違う事を言うかもしれない
でも、それは過去の経験が違うからです。全てを経験できないので、完璧な答えを
出す事はできませんが、少なくとも、毎日、毎日、考えていますから、何らかのお役
には立てるはずです。我々もプライドある造船所のように、駄目な物は駄目と言える
業者になりたいものです。それが必ずオーナーの為になるという場合ですが。

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