第十五話 クルージングというジャンル

この言葉を聴くと、誰もが船旅を思うか、セーリング中にのんびりビール飲んでるか
そんな光景を思い浮かべるらしい。雑誌見ても、クルージングという言葉には、必ず
どこかの陸地が紹介してあるし、そこがクルージングスポットらしい。それらが楽し
そうだという事も良く解る。初めて来た田舎の土地に、上陸して、散策するのも楽し
そうだ。爽やかな天候に、のんびりセーリング、気分も上々でビールなんて出てくる
のもたまらない。それもみんな解る。

でも、である。ここからは私個人的な考えですが、それだけじゃつまらんのです。それ
らも良い事は確か、でも、初めて行くスポットは良いが、しょっちゅう行くとなると珍しさ
も半減してくるし、だからと言って、いつも新しいスポットばかりを目指して行けない。
行動範囲は時間の制限を受ける。それにビールも大好きだが、可愛い女性でも居れ
ばもっと良いが、そればかりやってるのもどうも今一、第一、いつも爽やか天候でも無
い。まして可愛い女性など来ない。

仕事で忙しく、家族も居るのでほったらかしにしとくと、やがては熟年離婚にもなりか
ねないが、それらは別としても、半日でも良いからセーリングを堪能したい。昔、ちょっと
釣りをやっていて、毎週土曜日の早朝に出かけ、昼過ぎには帰っていた。それから、
かみさんに付き合う。そんな程度でも良い。半日でも良いから、セーリングそのものを
堪能する方が面白いと思う。だから、ヨットで過ごすのはセーリングしているか、その後
のコーヒータイムぐらいで、キャビンで読書しないし、長時間キャビンに居る事も無い。
セーリングしている時間は短いが、それなりに充実していると思う。そういうやり方で良い
と思っている。人にはそれぞれのスタイルがあるので、一概には言えないが、少なくとも
そういうスタイルは、ヨットに乗る人なら誰でもできる。遠くへ行きたくても時間が無い。
でも、短時間でセーリングを堪能する事ぐらいは誰でもできる。それができないなら、ヨット
には乗れない。

それで、そういうスタイルにはシングルという結論になる。その方が自分のペースが守れる
からです。それで、シングルのはどんなヨットが良いかと考える。これはあくまで個人的な
好みも含まれるので、ごり押しはできないが、ちょっと小さめの帆走性能の高い、美しい
ヨットでなければならい。美しいのは人それぞれの美観があるので、自分が好きなデザイン
なら良いわけです。サイズにしても、気力が違うので、大きくても、小さくても良い。ただ、
乗りこなせるという前提がなければならない。何とか動かせるでは堪能はできない。
ヨットの主人にならなければなりません。そうなると、舵持っていても感じるものが違ってくる。
自分のサイズというものがある。

これが私の考えの原点です。いろんな使い方がある中で、セーリングに集中して遊ぼうという
のが考えの中心にあります。もちろん、ビール飲む事だってあります。どこかに行くという事
はあまり無い。むしろ、好んでは居ない。まして、どこかに行く時は一人では行きたくないの
です。旅は道連れが居た方が楽しい、でも、セーリングは一人でも楽しい。短いセーリング
であっても発見する事は多い。舵を持つ感覚、セールがピタリと決まった時のスムースさ、
タッキングがスムースだった時の感覚、重心の低さを味わう感覚、びゅうびゅう吹いた時に
感じる重心の低さは実に良い、セールを動かした時の感覚、そういう感覚に自然に集中し
ているので、いろんな物が感じられる。それで、今日は良いセーリングだったと思う時があ
る。そういう余韻に浸りながら、帰ってきてコーヒー一杯飲みながら、一服。これがまたたま
らない。

荒海を乗り越える事も無ければ、いろんなクルージングノウハウも無い。しかし、それでも
ヨットが面白い。そういうスタイルがあっても良いのではないかと思う。誰かと乗るにしても
それがしょっちゅう一緒なら、やはり同じようなスタイルを持った人でなければならない。
もし、そういうパートナーが居るなら、かなりでかいヨットでもOKなのです。でも、ヨットがでかく
なっても、時間が増えるわけでは無いので、やっぱり近場のセーリングが中心になる。
それに遠くに行きたいとは思わない。第一、エンジンで何時間も走り続けてもちっとも面白く
無い。確かに、その地につけば、その地の近場をセーリングするというのは、またこれで
面白い事には違いない。でも、そこにたどり着くのに、何日もエンジンで走るなんてのは、嫌
なのです。たいていは、早く着きたいので、エンジンで行きますよね。暗いうちから出て、明る
いうちになんて考えます。だいたい何時までに、どこまで行くというのが、あまり好きでは無い。
かと言って、車みたいにどこでも駐車できませんから、いかなきゃならん。そこに行くと楽しい
事が待っている。かもしれないが、プロセスが嫌なんです。2時間とか3時間交代の見張り、
食事も貧しく、そして必ず荒れる。行く方角も見慣れた風景、それじゃ余程時間が無いと、
そこからは抜け出せない。

そんな事より、近場でセーリングしていた方がぐんと面白い。同じ風景なんですが、風景として
見ていません。陸地のポイントぐらいにしか見ていない。後は、セーリングの感覚だけを楽しむ
だから、セーリングが面白いヨットという事になる。それで自分で悦にいる為に美しいヨットとい
う事になる。重心の低いヨット、造りの良いヨット、帆走性能の高いヨット、操作のしやすいヨット
そういう事になる。それで、その為に多少キャビンを犠牲にしてもやむを得ない。キャビンと
セーリングではセーリングに軍配が上がる。このふたつは対立しているものですから。

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