第一話 造船所とコンセプト

お蔭様で、これまで数多くの造船所を訪問する事ができました。大規模な工場を持つ
大量生産の造船所から、カスタムで年に1艇か2艇程度しか建造できない造船所まで
その規模は様々です。年間1艇の建造から、最高2,500艇ぐらいまでの建造を誇る
造船所があります。舵誌によりますと、プレジャーボートの造船所は世界に4,000社
ぐらいあるそうです。ヨットの造船所の数は解りませんが、日本に紹介された造船所は
一握りに過ぎないかもしれません。

その数多くの中から、我々業者は日本に売れそうなヨットを持ってきます。大量生産艇
はもちろん価格が安いので、日本に既に入ってきていますが、それ以外にも数多くの
ヨットが世界中で建造されている。そして彼らの建造するヨットが受け入れられているか
らこそ続いているという事実があります。日本ではまだまだヨットが深く知られていませ
んが、これからはもっと目を開いて、いろんなコンセプトのヨットを知り、個性豊かなヨット
ライフを築いていけるようになればと思います。

マリーナにおいて話をすると、どこでも共通する事はヨットが動いていないという事です。
この事は、今からヨットを始める方が、みんなと同じようにしていたのではヨットを楽しめ
ないという事です。やがては、動かないヨットの仲間入りは目に見えています。それでは
何かが違っている事になります。自分のスタイルに合っていないのです。スタイルとは自
分の考え方であり、ライフスタイルです。簡単な事で、子供が居るとか居ないとか、小さい
とかもう大きくなったとか、どれだけ自由な時間が取れるのかとか、そういう事です。遠く
に行きたいと思ってヨット買っても、暇が無ければ行けません。今どうやってヨットを楽し
めるか、ここに集中して、環境の変化が必ず来ますから、その時にまた考え直す。今が
大切です。今を楽しむ事によって、いつかは遠くに行けるようになります。今が無い人には
いつかもありません。それで、造船所を知り、どんなヨットが自分に合うかを考え、できる
だけ合うヨットを見つけて頂きたいと思います。どんなに安いヨットであろうと、乗らなきゃ
何にもならない。かえって高くついた事になる。予算もあるでしょうが、予算内に入る中で
できるだけ自分に合ったヨットにして、楽しんで、たくさん乗って、そうすればかえって安く
つくという事になります。

ヨット選択においては頭で考え、理屈で判断したりしますが、ただその過程において、理屈
では割り切れない感情が入ってきます。それが人間だと思いますが、それが個性でもある。
その感性は個人特有なもので、大切にすべきだと思います。どうせヨットは何かの仕事を
する道具では無く、純粋に遊びですから、その感性が訴えるものは自分の正直な気持ちで
しょうから、それに従うべきかと思います。ヨットのコンセプトを検討し、価格を調べ、その中
から最も感性が望む物という事になりましょうか。決して、他人が持っているのと同じ物なら
安心なんて思わない事です。他人と同じように乗らなくなる可能性がある。でも、たくさん乗っ
ている人と同じヨットでも、今度はライフスタイルが違うので、これもどうなるか。やはり、ヨット
は自分で決める。

大量生産艇のコンセプトは価格を安くする事と見かけを良くする事にあると思います。一方、
少量生産の造船所は同じ土俵では敵いませんので、自分達の建造コンセプトを検討します。
つまり品質と価格のバランスをどこで取るかという問題と、ヨットそのものの性格をどう位置
づけるかという事になります。その結果、木造であったり、使用素材、工法の違いであったり、
或いはクラシックデザインだったり、ビッグボートであったり、またレーサーやデイセーラーで
あったりいろんな考え方が出てくる。市場に受け入れられている造船所はそのコンセプトと品
質、価格のバランスが受け入れられている。品質が悪いのに高価なんて物は受け入れられ
ない。素材が良いのは、ヨットの品質を上げる。そして、それに伴って工法においても、その
辺のにいちゃんがやるのでは無く職人がやる。そうすると必然的に価格は上がる。後は、市場
がそれを認めたかどうかという事になり、マーケットに長く居るという事は市場が認めたという
事になる。自動車のように機械で何でも作れれれば良いのですが、ヨットは職人の手が入れば
入るだけ良いヨットになっていく。

それで、まずは予算内にあるヨットの、いろんなコンセプトのヨットを集め、その中から自分の感
性に訴えてくるものを見つけだす。こういってはなんですが、同じサイズで1,000万のヨットと
1,500万のヨットがあり、予算が1,500万を許すなら、そちらの方が品質は上だと思います。
それを買う方が良いでしょう。但し、感性がノーと言っているなら別です。理屈ではこれはどうも
と思うのだが、どうしても惹かれる何かがある。これはイエスだと思います。ただ、この感性が
本当は自分の感じた事では無く、誰かが言った事とか、そういう物がベースになっていると間違う
事がるので、要注意でしょう。ヨットは完璧はありえない。妥協しなければならない部分が必ずあり
ます。それでも、自分が最も楽しみたい部分は何か、これをしっかり持って考えれば、間違いは
無いと思います。その他の部分で、多少妥協しなければならない部分もあるかもしれませんが、
最も強調する部分が満足し、気に入れば、そのヨットの悪い所より、良い所を見ようとするもので
すから、それで良い。どうせ遊び、されど遊び、たかがヨット、されどヨットです。

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