第九十九話 キャビン

キャビンについてはこれまで何度も言ってきましたが、キャビンが不要だとは言いません。
でも、今日の多くのヨットが大きなキャビンを強調していますが、果たしてそこまで必要か
という疑問が沸いて来ます。キャビンが広いという事は住まう事にとっては有効です。
一方セーリングするという面においては、性能を減じています。重心が高くなる。風圧面積
が大きくなる。これはセーリングするという事においてはマイナスです。何でもそうですが、
物事にはプラスと同時にマイナスが存在します。それで、大きなキャビンは一概にマイナス
と片付ける事はできない。住まう人にとってはおおいにプラスになるのです。

但し、私が見る限り、住まう人は少ない。殆どいない。別荘代わりも少ない。そういう場合
において、大きなキャビンはプラスよりもマイナスの作用の方が大きいのではないかと思う
次第です。それで、昔のヨットはというと、フリーボードが低く、重心は低い。でも、ちゃんと
天井は立つ高さはありました。部屋の数も今のヨットと変わりません。バウキャビンがあって
メインサロンがあって、アフトバースがある。ひとつひとつの部屋の大きさは違うかもしれな
いが、支障は無いわけです。今のヨットが大きいと言ってもキャビンがひとつ増えるわけでは
無い。広いキャビンを必要とするなら、サイズを大きくするという方が健全ではないかと思い
ます。

視点をセーリングにおくなら、重心は低い方が良い。風圧面積も少ない方が良い。セーリング
が少しでもやり易くなるなら、そっちの方がはるかに良いと思います。ヨットはセーリングして
何ぼですから。単なる移動に使うならモーターボートの方が速いわけで、ヨットはプロセスを
楽しむ乗り物ですから、セーリングをどれだけ楽しんだかが、ヨットのヨットたる所以ではないか
と思うのです。

とは言っても、最近のヨットはみんなフリーボードが高い。しかし、今でも低く造っている造船所
もあります。どちらを優先するかはオーナー次第ですが、必要は必要、でも必要を過ぎる必要
は無い。

アメリカでデイセーリングヨット、シングルハンドヨット、そういうのは非常にフリーボードが低い。
キャビンは住まう為では無く、ちょっと寛ぐ為と割り切っているので、セーリングを優先した考え
方だと思います。この割り切りはあっぱれで、こういう割り切りができるなら、セーリングはもっと
面白くなる。

次へ      目次へ