第五十三話 オーバーナイト

夜間航行は怖い。そう思って、なかなか夜間に走った事が無いという方も多いと思います。
確かに、昼間に比べると解りにくい。でも、一度、月夜に海を見てみたらどうでしょう。以外
に明るいのです。良く見える。昼間にセーリングに慣れたら、夜間航行にトライするのも良い
のではと思います。

取りあえずはホームポート近辺で、慣れた地形で、灯台などを海図で調べておいて、何秒
に1回光るとか、そういうのを確認しておきます。それから、明かりは街の明かりがきらきら
光るので、それがどこか、どんな風に見えるのかも確認します。GPSなどもありますから、
視界さえ良ければ、たいして怖くない事に気づくでしょう。

本船がいきかうなら、ここで航海灯を思い出してください。航海灯は左舷に赤、右舷に緑、
後ろは白です。もし、本船が来ていて、赤が見えるなら、その本船の左舷が見える事になる
緑なら右舷が見える。両方が見えたらなら、その本船はまっすぐこちらに向かっている。
真正面から本船を見ている事になる。赤とスターンの白なら、その両方が見える角度とは?

夜でも明るい時に、夜間航行をして、慣れておくのも良いと思います。夏の暑い時、昼間は
地獄です。暑くて、暑くて、でも、夕方からのセーリングなら、涼しくなって、実に快適なセー
リングができる。夏の昼間はオフシーズンなのです。夕方から出ると、夕陽が見える。美しい
夕陽を堪能した後は、夜光虫がヨットのかき分ける波頭にキラキラ光る。幻想的な光は、これ
またムードたっぷり。エンジン音は無く、手馴れた手つきで、セールと舵を操る男は実にかっこ
良いじゃないですか。これなら日に焼けないないので、女性だって来るかもしれませんよ。
気楽に1,2時間でも良い、ヨットじゃなけりゃ味わえない。

これを楽にやるには、昼間の操船になれておかなければなりません。まずは自分のホーム
ポート周辺に慣れ、どこに何があるかに慣れ、基本的な操船になれておく。そうすれば、明るい
夜のセーリングは大丈夫です。

ちなみに、行き交う艇の赤が見えたら、向こうが優先、緑なら、つまり相手はこちらの赤を見ます
から、こちら優先です。但し、本船の邪魔はしないように、それとこちら優先だからと言っても、
注意が必要です。自分が避けるぐらいの方が安全です。

先日のレースでは夜間は夜光虫が非常に美しかった。初めての方々は感激してました。ヨット
の両サイドの波に、蛍光灯をともしたように、明るく、青緑に光る。おまけに、昼間はくじらの子供
がヨットの周りをぐるぐる回って、これにも皆さん感激されていました。まあ、夜間は穏やかに、
セールのトリミングもそこそこに、こういうセーリングを楽しむのも一興ではないでしょうか。

セーリングこそがヨットの最高の面白さ、と常にに言っていますが、セーリング自体になれ、ヨット
を乗りこなす事ができれば、ヨットに付随するいろんな事が気楽に楽しめるようになります。ヨット
の使い方にバリエーションができて、ヨットをもっともっと楽しめるようになる。

10年、20年、長いキャリアを持つヨットマンがたくさんおられる。でも、年数では無いんです。どれ
だけ回数乗ってきたかです。ですから、今からヨット始めた方でも、回数多く乗れば、そして、すぐに
慣れてしまう。私がこれまで出会った方の中で、特筆すべき方が二人おられます。一人は引退して
ヨットを始めて乗った方。時間があったので頻繁に乗られていましたが、2年目にして、日本一周を
実行された。もう一人の方は、同じような境遇ですが、シングルで50フィートオーバーに乗られて
いました。練習さえすれば、回数乗れば、真剣に遊べば、できるようになるのです。この二人、全く
始めてだったので、既存の考え方にとらわれる事がなかった。もちろん、海をなめてはいけません
が、その気になりさえすれば、可能であるという事でしょう。

是非、この夏は夜間航行を試してみてください。

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