第九十一話 オーバーラップ
| 最近のレーサーの話を少し。最近のレーシングヨットを見ますと、少し変わってきた事に気付きます。 ただ、レーシングヨットはレーティングに縛られますので、全ての変更が必ずしも速いという事には 繋がらず、場合によっては遅くなってもレーティングに有利だからという事もあります。 船体の幅が少し狭くなってきた事と、カーボンマストが増えてきた。そしてマスト位置を前側に移して メインセールが大きく、その分ジブは小さい。しかも、昔のようにメインセールへのオーバーラップが 殆ど無い。マストはスプレッダーが大きく後方へ張り出し、チェーンプレート位置が外側に出ている ので、当然ながら大きなジェノアははなっから設置できないようになっています。その分、ジブは内側 に引き込める。 これはより上り角度が良くなっている。インショアレースを見ての事ではないかと思います。ジェノア のオーバーラップは風が弱い時はメインセールとの間を通るスロット効果を期待できる。でも、のぼり 角度という面では、あまり引き込むとメインセールに裏風を当ててしまう。でも、ノンオーバーラップで はこの影響が無いので、思いきり引き込め角度を稼げる。でも、ちょっと落とした角度では以前のヨット の方が速い。つまり角度稼ぎ。そして、メインセールは従来より大きい。これはメインセールの方が セール形状をコントロールし易いところにある。 ダウンウィンドに入ると、ジブは降ろされ、スピンか非対称スピンが展開される。という事はこの時点 ではジブが大きかろうが、小さかろうが無関係という事になる。でも、メインセールは今のヨットの方が でかいので、ダウンウィンドでは絶対有利。つまり、レーストータルで考えた場合に、今のヨットの方が 速いという事になるでしょう。 一般的なクルージング艇にしても、多くの影響をレースから受けている。それらの一部はクルージング 艇にも採用されてきた。幅の広いレーサーがデザインされ、連戦連勝を飾り、そしてやがてはそれらが プロダクションボートにも採用された。これはキャビンを広くできるというメリットがあった。水線しかり、 バウが真っ直ぐ水面に向かって直角におりるという程ではないが、でも、昔のヨットより水線長は長く なってきた。その方がより速いし、キャビンを少しで広げる事ができる。 でも、その反面失っているものもある。幅が広くなったという事は船底形状がよフラットになっている。 この事は波が高くなってきた時、波に叩く事になる。船体の弱い艇ではかなりのショックを受けるで しょうね。それに水線長が長くなったという事は確かに速くなるし、キャビンも広げられますが、バウの オーバーハングはクラシックヨットでは非常に長かった。でも、今は殆どオーバーハングの無いヨットも あります。このオーバーハングはだてでは無い。オーバーハングが長いと波がデッキ上がって来ない。 つまり、今のヨットの方が速いし、キャビンも広いが、乗り心地は昔のヨットの方が良い。 とは言うものの、殆どのプロダクションヨットが大小の差こそあれ、同じように幅は広いし、オーバーハ ングは少ない。一部のクラシックヨットが昔のデザインを残している。まあ、良い悪いの問題では無い。 今、レーサーのオーバーラップ無しのセールが増えてきたが、ひょっとすすると、これもクルージング艇 に採用されていくのではないかという気がします。ただ、セーリングを主体に造船所が建造するという 意識が無ければ、メリットをメリットとは考える事は無いと思いますが。 前にも書きましたが、セーリングを気軽に楽しむ、ショートハンドスポーツクルージングという事を考えた 場合、大きなジェノアはコントロールしにくいし、タック時も大変です。それに、少し風が後ろに回ると シートのリード位置の関係上、無理なんですね。それでウィスカーポール使ったりする人も居ますが、 まあ、面倒です。本当はここで、スピンの登場なのですが、これまた大変だ。それで殆どのスピンは 使われていない。ところが、ジェネカーの登場で、少しやる気になってきた。さらにファーリングジェネカー の登場でさらに楽になる。 まとめますと、ノンオーバーラップジブと大きなメイン、それにファーリングジェネカー。セーリングを楽に ショートハンドで楽しむにはこれが良いのではと思います。将来、そういうヨットが増えてくるだろうか？ メインセールはブームがついています。これだけでも随分違う。それに、メインシートトラベラー、バング バックステーアジャスター、これだけでもジェノアコントロールよりいろいろできる。いっそのこと、ジブは セルフタッキングジブでも良いぐらいではないかと思います。特にシングルならですね。そして、おおいに ジェネカーを使いこなす。こういう風になるような気がするのですが。 但し、造船所がセーリングを主体に考えるようになればの話ですが。キャビンをもっと広くしようと考えて いるうちは、そういう事は無いでしょうが。 |