第六十六話 始めの一歩

どうせ買うなら30フィートという人は多い。もちろん、人にもよるが全くの初心者で、しかも家族
をクルーとするなら、シングルで乗るのと変わらない。そのうち家族も来なくなる事も多くなる
そういう事を考えたら、30フィートは大き過ぎないかと思う。つまり、初心者がシングルで乗る
には30フィートはでか過ぎやしないか。クルーが一人でも居るなら、問題は無いかもしれないが
家族はだいたいあてにならない。コクピットに座っているのが通常である。

もちろん、乗れないわけでは無い。かなり練習すれば乗れるようになるだろう。しかしながら、そ
の前に挫折する事も多い。まずは出航の時に他のヨットにぶつけないかと心配になる。この緊張
感が気軽さを失わせ、良い風の時でも、ちょっとためらってしまう事が多い。それを押して、練習
すれば良いのだが、その為に出さなくなる事も多い。そうなると、クルーが居る時にしか出なくなり
結局は自由にいつでも気軽にという事が無くなる。せっかく、ヨットに乗るというチャンスを得ながら
そのチャンスをつぶしてしまう事になりかねない。他人に聞くと、シングルで30フィートぐらいは大
丈夫と言う人は多い。しかしながら、練習すればの話で、練習する前に止めてしまえば、乗れなく
なる。ここで言う、乗れるというのは、いつでも自分が出したいと思った時に躊躇無く出せるという
事です。冷や汗たらたらで出さなくてはならないのなら、それは気軽さがそこには無い。よって、
かなりの強い意思が無いと出せなくなる。

そこで、初心者の方には25,6フィートで始める事をお奨めします。このサイズになると、かなり
ボリュームも軽減され、大きさから来る威圧感も無いし、コントロールはかなりし易くなる。こういう
ちょっと気持ち的に余裕があるぐらいで、練習を重ね、ヨットの操船を覚えるのが良いと思います。
このサイズでもキャビンはそこそこあるし、トイレだって、ギャレーだって一通りは揃っている。ヨット
の基本を体得するには充分だと思います。そして、何年かの練習の後、気軽に出せるようになった
ら、30フィートを買うも良し、或いはこのままでも良いと思うかもしれません。それに、買い換えるに
しても、これまでの経験でどんなヨットが良いのか、自分の性格やライフスタイルからして、どういう
乗り方が良いのかが解ってくる。そうすると、次に選ぶヨットも解ってくる。

最も大切な事は、キャビンが大きいとか、何人寝れるとか、個室トイレがあるとか、或いは性能
が良いとか、そういう事では無く、まずは自分がシングルでも気軽に乗れるようになるという事だと
思います。気軽に乗れれば数多く乗る。数多く乗れれば習熟し、自由自在になる。ここが大切だと
思います。どんなに素晴らしい性能であろうが、どんなに広いキャビンだろうが、どんなに豪華だろ
うが、気軽に乗れないヨットは、そのうちヨットでは無くなる。逆に、うまくなって、気軽に乗れるなら
どんなにでかいヨットでも構わない。でも、いきなりでかいヨットを気軽に出せる人は、余程の度胸が
あるか、才能がある人です。一般的には難しい。いきないハードルを高くすると、せっかくヨットを楽し
む才能があるにも拘わらず、そのハードルを越えれないという事が良くあります。

私が知っている例でも、同じケースがあります。どうせ買うなら、そんなに買い換えはできないから、
といって30フィートを購入された。始めはもう少し小さい方が、と言っても聞かれない。最初は一緒に
乗って、覚えてもらいますが、そのうち一人で乗らなければならない時が来る。そこからがスタートで
す。誰か一人居るか居ないかはとても大きな事なのです。奥さんは何もわからず、コクピットに座る
だけですから、あてにはできません。ひやひやしながら出す。これを押して何度も何度も繰り返し、
気軽に出せるまで練習するのはなかなか難しいのです。何しろ、ぶつけたらカッコ悪いと自分で思う
からです。ところが、25,6フィートなら、もっと気軽になれます。意外に、みなさん何年か後に買い換
える方は多いのです。いきなり30フィートで、何年か後にやめてしまう人も居ます。そうならないように
願います。

確かに40フィートをシングルで乗る人が居ます。でも、彼と自分は違う。彼は、小さいヨットから練習し
今になったのかもしれませんし、或いはいきなり40フィートだったとしても、どの世界にも特別にうまい
人は居るものです。30フィートでも同じです。でも、40フィートや30フィートにシングルで乗っていたと
しても、気軽に乗っているのかどうかは本人しか解らない。大きなヨットを冷や汗かきながら乗るより、
小さなヨットを気軽に乗れる方がどれだけ楽しいか。そして、余裕が出てきてから、必要だと思った時
にいくらでもでかくすれば良い。今、できる事をするのが良い。今自分に合うのが良い。将来の自分に
合う物は今の自分には合わない。

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