第五十六話 カスタム

会社名にカスタムという言葉を入れました。これはカスタム艇をも指しますが、もうひとつ
お客様に対して、カスタム的に対応したいという考えからきています。本来、ヨットという
のはいろんな考え方があって、これが正しい唯一というのはありません。人それぞれの
乗り方によって異なります。良い悪いが人によって違う。

プロダクション艇にはオプションがありますが、その中から選択します。これによって仕様
が決まってきます。でも、いろんなオプションがあり、選択が多いのは造船所としては、
面倒なのです。面倒な事は生産効率を落としてしまいますので、できれば決まりきった
仕様が造りやすいのです。でも、使う側の立場からすれば、できるだけ自分流の仕様が
できる方が良い。例えば、これもついてないの?という方がたまにおられますが、ついて
いるのが当たり前という考え方は、造船所の仕様に慣らされているだけで、造船所に
とってはその方が良いのです。

ところが、そういう対応の仕方では無く、豊富なオプションを持ち、ひとりひとりのお客様
に対応していきたいと思う造船所もあります。あくまでプロダクション艇ではありますので
コンセプトそのものを変える事はできませんが、造船所のコンセプトに納得頂いたうえで
オーナーがどういう乗り方をしていくかで、できるだけそのご希望に対応しようとする姿勢
があるかないか、何でもご希望とおりとはいきませんが、できるだけそういう姿勢を持った
造船所というのは、お客様の方を向いていますので、かなりご満足頂けるのではないか
と思うのです。そこで、私共も造るわけではありませんが、カスタム的な対応をできるだけ
したいと思ってカスタムという言葉を入れました。

以前、セミカスタムを納めた事があります。その時のエピソードですが、オーナーはいろん
な事を要求されました。船体以外は全てカスタムですから、それはそれは大変でした。
オーナーの要求があり、それに対して造船所はそれはできない、こちらの方が良い。そう
いうアドバイス、私は間に入って、そりゃ大変、オーナー曰く、俺が買うんだから、俺の言う
通りにしたらどうだ、そう言われて、それもごもっとも、でも造船所も譲らない。結局はオー
ナーが折れて、造船所のアドバイスに従った。造船所のオヤジ曰く、大丈夫、きっと気に入
るから、それを信じて、納めました。結果、オーナーは大変に気に入り、長い長いお礼の
手紙を頂きました。こんな事は初めてで、カスタムにはそういう事もある。通常のプロダクショ
ン艇のオプション程度ではそこまでは無いと思いますが、でも、ひとつひとつが大切なヨット
ですから、できるだけの対応はしなければなりません。また、オプションに無い物さえも、場合
によっては造船所は応えてくれます。ここが良いところですね。

うちで扱っている造船所は、だいたいそういう造船所ばかりです。いちいち細かくやるのは面倒
で、できれば決まりきった内容で、ポンポンと納めた方が楽なのですが、でも、オーナーといっし
ょに、ああでもないこうでもないと作り上げていくのも面白いものです。ちょっとした事かもしれま
せんが、ヨットの楽しみには自分好みに仕上げる楽しみもあります。それが、使ううえで、より
使いやすいとかいう事につながりますし、これは自分が使いながらでも、その過程においてでも
考え、変えていく事ができます。乗って楽しみ、それに合わせ自分流を楽しむ。

ある造船所はメインシートトラックをコクピットに配していますが、ご希望によっては入り口の向こ
う側に設置する事もできます。スループをカッターリグにしたり、オプションリストに無い、セルフ
タッキングジブに変えたり、少しの変更が、使いやすかったりもします。こういうちょっとした変更
でも造船所にとっては大変な事です。それを作業する職人はひとつひとつに気を使わねばなり
ません。でも、これをやる造船所は良い造船所だと思っています。姿勢が自分達の生産効率
よりお客様の方を向いているからです。これにならって、当社もそうしていきたいと思います。

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