第四十六話 本末転倒

本来ヨットはセーリングする為にあるわけですが、それをセーリングを二の次にして、
そこに住まうかのような、或いは遠くへの移動手段として考えてしまった。ところが、
欧米人はともかく、日本人は住む事はなかったし、移動手段に使うにしても、暇が
無いので、そう遠くへは行けず、行ってもエンジンばかりを使うようになった。基本的
に、これは自分達のスタイルには合わない欧米人のライフスタイルではないのか。
そういうヨットはセーリングという基本的な機能をも阻害してしまう。

キャビンの大きさやベッド数なんかを見ても、小さいヨットだろうが、大きなヨットだろう
が基本的にはそう変わらない。バウにVバースがあり、サロンの両サイドにソファー
があり、後は物によってアフトキャビンがあったりなかったり。住まうならば、アフトキャ
ビンがあるか無いかは重要かもしれないが、たいてい30フィートもあれば、だいたい
どれもある。大きさはひとつひとつの広さでしかない。大きくなったからと言って、その
分多くの人間が寝泊りできるわけでは無い。たいそうなギャレー、オーブン付きのガス
コンロ、ダブルシンクに温水、冷蔵庫、こういう物を必需品であるかのような錯覚がある
が、使っていない人は多い。

つまり、選択する時の観点をキャビンからセーリングに変えるべきではないかと思う。
どんなヨットであろうと、バウバースはあるし、サロンもある。ひとつひとつの広さが違う
だけです。今までの選択の仕方では使えない。それで、セーリングを基本とした選択
を考えるべきではないでしょうか。自分の状況を見て、何人で動かすのか、これも、
注意しないとあてにしていたら来ない事が多くなる。それで、最もシングルハンドを基本
にしておく事をお奨めしますが、兎に角、どうやって動かすのか、それを観点にしてヨット
を見る。それと、実際の運用をスムースにする為、メインテナンスがし易いかどうかも、
考慮する。しにくいヨットはしなくなる。これ常識です。

キャビンがそれ程おおきくなくて良いなら、キャビンの天井は必要以上に高い必要は
無い。フリーボードも低くできる。そうすると、重心は下がり、風圧面積も減少する。造り
が同じなら、全体重量も軽くなり、それでいてバラスト重量が同じなら、スタビリティーが
良くなる。セーリングにおいて良い事だらけなのです。それでいて、キャビンはもちろん
あるし、寝泊りもできる。また、ボリュームが減少する為、大きさから来る威圧感も減り、
気持ち的にも出しやすくなる。

スタビリティーが高くなると、これまでこのぐらいの風でリーフせざるを得なかったのが、
そのまま走れるようになる。という事はより快走が楽しめる事になるし、リーフという面倒
な作業も減少する。或いは、低い重心はより大きなセールをも展開できる。ちょっとした
ブローに大きくヒールするのと、ゆっくりした動きで少しヒールするのとでは、この違いは
大きい。

日本的ヨットスタイルはショートクルージングを基本として、セーリング自体を楽しむやり方
これが最も合うと思う。日本人はいつも何かをしたがる国民性だと思いますが、もし、キャビ
ンで一日中読書をして過ごせるなら、それも良い。でも、殆どの方はそれができない。何か
をするという行為が無いと、休みがもったいない。宴会という行為をする。マリーナで釣りを
する。そういう何かがあってこそキャビンは使えるが、これらの行為はいつもいつもでは無い
よってキャビンにただ居るだけという行為はできない。何かのイベントがあってこそ使える。
サブ的な存在です。そこで、セーリングをすると、その後でちょっと寛ぐ為にキャビンを使う。
セーリングをして初めて、キャビンが活きるのです。普段セーリングをしているからこそ、今日
は出さなくても、1日キャビンで読書ができるし、1日メインテナンスに費やす事もできる。それ
が、普段セーリングしていないと、こんな使い方は出来なくなる。欧米人とは違います。

それで、欧米人スタイルを真似ても楽しく無いですから、自分スタイルで遊ぶのが良い。これ
がセーリングです。セーリングをもっと追求して、腕を上げて、快走を楽しみ、腕が上がっていく
のを楽しみ、知的遊びに興じ、そのうえでこそキャビンが活きてくる。でも、住まうわけでは無い
ので、多くは必要無い。

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