第四十五話 流れが見えてきた

日本のヨット界の低迷が続く。日本経済の長い低迷と連動している事には違いないが、
それだけでは無い。もし、経済が好調なら、ヨット界も好調だっただろうか?ヨットに乗ら
ない状況は経済の問題だけでも無く、例え、好調でも、現状ではヨットの稼働率は低い
ままではなかろうか。経済が好調なら、進水件数は増えてきたであろうが、それでも、
稼働率は上がらなかったのではなかろうか。とにかく、オーナーがヨットに乗る事、楽しむ
事が基本的に必要ではないか。

そういう意味では、現在の状況は今までのヨットに対する考え方を見直す絶好の機会で
はないかと思う。どうやったら、ヨットの稼働率があがるのか?つまり、どういう使い方を
すればヨットがもっと楽しくなるかという事につきる。今はこれを考え直すチャンスである。
この新しいスタイル、乗り方が模索され、その暁には、日本流の楽しみ方ができ、稼働率
もあがる。日本流の乗り方に対して、それに合うヨットはどんなものか?そういう事が解っ
てくる。

ヨットは欧米文化なので、日本の生活スタイルが欧米化する中で、ヨットも同じように欧米
スタイルを想像してきた。ところが、その結果は現状の通り、乗らないヨットが実に多いと
いう事が解ってきた。これは単純にクルー不足とか、忙しいとか、そういう問題では無い。
単に欧米スタイルを真似てみたが、自分達のスタイルに合わなかったと見る方が妥当で
はないかと思う。

大きく分けて3つの使い方があると思う。一つ目はヨットのキャビンを重視して、ヨットに泊ま
る。住み込んでしまうものから、別荘代わりまで、とにかく動かすより居住空間として使う。
2番目と3番目はセーリングとなるが、ショートクルージングとロングクルージングである。
ショートクルージングはデイセーリングからホームポートを基点に数日間で往復できる範囲
ロングクルージングは数週間から数ヶ月、ホームポートには戻らない。本当はこれにもうひ
とつ、外洋に出る乗りかたもあるが、これは一般的では無いので、省く。

三つの使い方がそれぞれ独立してあるわけでは無く、ミックスされるわけだが、そのブレンド
の仕方にスタイルの違いが出てくる。スタイルが違えば、選ぶヨットも異なる。一番目の居住
空間重視であれば、キャビンの広さと装備が重視される事になるのだが、ややこしい事に
こういう居住空間重視のヨットでも、ショートやロングクルージングにも行けるという点にある。
だから、オールマイティーなのだと勘違いしてしまう。ところが、こういうヨットは居住には良い
がその分セーリングにおける弊害も出てくる。選択の仕方が居住空間重視艇を選び、日本人
にはそのスタイルが合わない。ところが、そのヨットをセーリングに持っていった時、その向き
では無いので、こちらにもちょっと合わない。これが日本の現状ではないかと思う。

居住重視のヨットではセーリング性能が落ち、水線から上のボリュームは大きくなり、スタビ
リティーも落ちる。それはそれで、居住重視なら構わない。大きなボリュームは気軽さをも失わ
れてくる。ところが、居住に良いヨットに居住しないのが日本スタイル。ヨットに住んでいる人は
見た事無いし、別荘代わりも無い。泊まる人達も少ない。居住スタイルは日本人には合わない
と見て良いと思う。それで、気軽にデイセーリングに出たいが、居住用はそれも簡単ではなかっ
た。

二番目と三番目を考えるに、三番目は現役で仕事をしている方には不可能に近い。時間が無い
若い時の体力も充実している時期にロングへは行けないのが現状です。もちろん、今は年配の
方でも体力に自信のある方も多いので、そういう方々は引退後にロングに出る事ができる。
という事はヨットマンの大半が楽しめる方法はショートクルージングという事になる。実際、少ない
稼働率ながら、動いているのはこのスタイルです。という事は、このスタイルをいかに充実させる
かにかかっていると思う。

デイセーリングから1週間程度のクルージングをいかに充実させるか。これが課題ですが、もっと
細かく見ると、日常はデイセーリング、日帰りセーリングとなり、年に1回とか2回とか、そういう頻
度でのちょっと遠出という事になる。つまり、日頃のデイセーリングを基本に、キャビンや装備は
年に1,2回の使用となり、そんなにたいそうに重要視しなくても良いのではないかと思う。少なく
とも、キャビンがあり、ベッドがあり、最低限の装備があればそんなに不自由はしない。まして、
行った先で民宿やホテルに泊まって、食事や温泉を楽しむとなればなおさらの事ではないか。

ではデイセーリングを重視したスタイルを考えるのが順当ではないだろうか。デイセーリングに求
める要素はセーリング重視と気軽さにあると思う。もっとも大切な事は後者の気軽さであろう。気軽
に構える事無く、セーリングに出れる気持ちである。ヨットを動かせれば良いという問題では無く、
気軽に出せるという事が大切だと思う。気軽に出せる気持ちを持ったら、次は近場のセーリングな
のでエンジンで走るというより、当然ながらセーリングとなり、この場合セーリングして面白いという
ものでなければいけません。セーリングが面白いヨット、これが日本には合う。そう思います。
ヨットを出して、走りまわって、その日に帰ってきて、そして家に帰る。このスタイルなら、セーリング
がエキサイティングであり、爽快であり、優雅でもあったり、気持ちが良かったり、そういういろんな
フィーリングを与えてくれる乗り方が良い。

外に出ればできるだけ大きなヨットの方が楽だとは良く言われますが、それを気軽に出せるなら、
それでも良い。でも、出さないのなら大きいも小さいも無い。気軽に出せるのが良いサイズ、気軽に
出したなら、セーリングを存分に楽しめるのが良いヨットです。こうなってくると、稼働率は上がってい
くのではないかと思うのです。ヨットを自転車感覚で乗りましょう。どんなにでかいヨットだろうが、高級
艇を持っていようが、実際にセーリングしてそれを堪能している人の方が豊かになれます。だって、そ
うでしょう。あのわくわくした気分は何物にも変えがたい。それを味わう為に乗るのですから。

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