第二十八話 スポーツ

ヨットでスポーツというと、ものすごいグランプリレースとはまでは行かないまでも
ローカルのレースと思う方が多い。それでレースには興味は無いからと、こういう
のを避ける傾向にあります。でも、ヨットは元々スポーツでは無かったかと思うの
です。何もスポーツだからとレースでなければならないものでは無く、単純にスポ
ーツとして、走る事を考えても良いと思います。

欧米では同型のヨットだけを集めたレースも良く行われます。オーナーズ倶楽部
が存在し、典型的なクルージングヨットでも、全てが同型ですから、勝つチャンス
は誰にでもある。そういうレースができるのも同型艇がたくさんあるからです。
こういうレースは皆にとって面白いものでありますが、日本ではこうは行きません。
それでクルージング艇も他のレーサーに混じってレースに参加する。これはこれで
も楽しいものですが、勝つ事は無理です。だいたい勝つチームは常連ばかり。その
圧倒的なスピードの違いに、興奮度はやや冷める。レースに出る限りは、良い走り
さえすれば、チャンスが訪れるという可能性はもっていたいものです。でも、たとえ
どんなに良い走りであっても、勝てない。それが実情です。ところが、欧米のように
同型レースも無いし、これはこれで仕方が無いとあきらめる。そうやってクルージン
グ派の方々は走る事から、クルージングに向いていく。

クルージングというのは、長距離に相応しいと思うのです。ロングクルージングの楽
しみはまた別のところにある。航海計画をたて、島を巡り、その地の食事を楽しみ、
或いは温泉なんかもあるかもしれない。地元の漁師と仲良くなって、魚をたっぷりも
らって、新鮮な刺身にありつく事もある。こういうのはセーリングがどうこうというより
ヨットで移動しながら、寄った先の楽しみがもたらしてくれる喜びがあります。いわゆ
る旅の楽しみです。ヨットでしか味わえないその地へのアプローチを含めて、格別
な旅となります。

ただ、ヨットでの放浪者で無い限り、旅を延々と続けるわけにもいかない。それで、
日常はヨットをスポーツとして考えてセーリングするのが良いと思うのです。この時
ヨットは移動手段では無くなり、よりスムースに走る事を考えます。普段、こういう
乗り方で接していると、ヨットに習熟します。どこがどういう構造になっているかが
解る。すると、旅の途中にトラブルがあっても、難なく対処できるようになれる。ヨット
そのものの操船もうまくなる。うまくなるというのはただ速く走らせる事ができるという
のみならず、ヨット全体について詳しくなりますから、いろんな状況に対応がうまく
できるようになります。

以外ではありますが、ヨットに何年も関わっていながら、自分のヨットのどこがどうなっ
ているのか知らない方は多い。車なら最初から解らないで、業者任せでも何とかなり
ますが、ヨットはそうも行かない。自分のヨットに習熟する事は、より楽しいセーリング
より楽しい旅をするにも大きな役割を果たす。

自分のヨットに習熟する為にも、セーリングそのものを楽しむ為にも、ヨットライフにメリ
ハリを付ける為にも、普段はスポーツをして頂きたいと思いますね。長距離ではエンジ
ンを使うケースが多い。でもスポーツではマリーナの出入り以外はなるべく使わない。
その中で、よりスムースなセールの上げ方から、走り、他と競合では無いので、勝ち負
けはありませんが、ひとつの目安としてスピード計や風向風速計をつけて、速さを知る
のも良いと思います。シートの出し入れに反応するヒール角度やスピード、そうやって
同じ艇に何度も乗っていますと、どういう性格のヨットであるかが自然とわかってくる。
そして、それをうまく使いこなせるようになる。こういうヨットには自分が自分のヨットに習
熟しなければなりませんが、これがヨットを選択する時に、ただ動かせるかどうかという
問題では無く、習熟できるかという問題もあると思ういます。大型艇で、自分が忙しい
なら、クルーの誰かひとりでも、今乗っているヨットに習熟しているかどうか。そうさせら
れるかどうか。

艤装に工夫をすれば、かなり大型でも動かせる。でも、習熟することは結構大変になる。
それができるかどうかですね。習熟しなくても、動かせますが、習熟した方が、より面白く
なります。それで、スポーツをして頂きたい。自分のヨットがよりスムーズに走るように、
持っている性能をフルに発揮できるように、いくら典型的なクルージング艇であっても、
より良いトリミングはあるし、より良い舵さばきもある。スムースなセーリングは気持ちが
良いばかりか、ヨット自体にとっても、最も無理させてないのですから、ヨットにとっても
良い。重いヨットは相対的にスピードは遅い。でも、その中でもより速さを求めて、滑らか
さを求めて、舵を取り、セールとトリミングして、いろんなアジャスターを調整していきます
ときっと何か、ステップアップしたような感覚が得られると思います。

将来、ロングに行きたいとそういうヨットを購入するのは良い。でも、いつもロングの旅の
過程に居るわけではありませんので、日常は、典型的クルージング艇であっても、スポー
ツとして捉えてみてはいかがでしょうか。どんなヨットでもそれは可能でしょう。問題は
ヨットにあるのでは無く、乗り手側にある。

より滑らかな走りというのは、ヨットに習熟していかなければなりません。いやスポーツし
ていると自然に習熟していきます。この間は同じ状況で、もっとスピードが出たのに何故
今日は遅いのか、と考えます。或いは、その逆。こういう積み重ねがヨットを理解する事
に繋がると思います。或いは、潮の流れを理解するという事にもなる。天候にも詳しくなる
つまりは頻繁に乗るという事になりますが、ただ、ぼんやり漂っているだけでは知り得ない
それでスポーツと称して、感覚がそのモードに入っていれば自然にわかってくる。それに
しょっちゅうのるには、スポーツモードが飽きさせない。良い事ばかりではないでしょうか。
是非、スポーツして下さい。

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