第十二話 セーリングをいかに楽しむか

ヨットは真正面の風以外はどの方向にも走れます。そうすると、あらゆる方向の風を
どんな風に走るか。しかも、スムースに、滑らかに、そういう考え方で、乗り方を考え
たらどうでしょうか。乗り方というと、従来はレースとかクルージングとか、そんな考え
でしたが、そうでは無く、セーリングするという中で、どんな風にセーリングするか、と
いう考え方、乗り方を考える。自分のやり方を考える。

それはマリーナの出航から始まり、セールを上げ、そういうところから始まる。現実が
シングルハンドなら、どうやってシングルで出航して、セールを上げ、滑らかな走りを
体験し、帰ってくる。そういう流れをどうやっていくかを考えていただきたい。クルーが
いるならそれなりに、いる時、居ない時、そういう場面を考えた時、セールはどうするか
艤装はどうするか、ひとつひとつをアイデアと体験を交互に自分のスタイルを作り上げ
ていくと、ヨットは自分の物になり、自分に何が合っていて、何が合わないかも解って
くるとおもうのです。

クルージング派の方が、何もレースで無くても、より速く走りたいと考えるのはおかしい
でしょうか?外洋だろうが、近場だろうが、ヨットとして共通するものはセーリングですか
ら、そのセーリングを堪能する事はヨットの多くの要素を味わう事になる。場所が近いか
遠いかは、また別の話ではないでしょうか。ですから、全てのクルージング派の方に、
レースはしなくても、いかに速く走るかを考えて、実行して頂きたいと思います。速いと
いう事は効率が良く、スムースで、滑らかなタッキングなど、そういう事ですから、遅くて
も良いはずは無いのです。重いヨットでも、できるだけ滑らかに走った方が良い。そういう
ヨットは強風でもフルセールで走れます。

さて、クルージング派の方々に申し上げたい事の筆頭は、セールです。セールを新調し
ましょう。よれよれのセールでは苦労ばかり多く、良い事はひとつも無い。せっかくの
ヨットの能力が激減してしまいます。上ればやたらとヒールばかり大きく、どんなに調整
しようと思っても、どうにもならない。古いセールは擦り切れた車のタイヤと同じです。
タイヤは丸いのが4つあれば良いとは誰も思わない。でも、セールに関しては、破れて
いなければ良いと思ってしまう。でも、それが、楽しみを激減させている事に気づくべき
です。大きくヒールした。ジェノアは丸くなり、フォアステーのサギングも大きい。メインも
ドラフトは深いし、後ろに下がる。バックステーを引きたいが、それが無い。あっても、引い
てもセールが伸びきって調整しきれない。大きなヒールは疲れるものです。それに効率も
良く無い。仕方ないから風を逃がす。苦労あって益無しなのです。それがセールさえきちん
としていれば、バックステーアジャスターを引いて、フラットにしたり、サギングをとったり、
その他、ハリヤードを引いたり、ジェノアカーを下げたり、アウトホールを締めたり、いくつか
の調整はありますが、ひとつひとつは何でも無い事です。でも、それによって、快走すると
したら、どうでしょう。滑らかな走りは実に気持ちが良いものです。そして、快走してきた後
の帰港後のひとときは格別なものがあります。これは経験者で無ければ味わえない。
こういう経験を重ねていきますと、多少キャビンが広かろうが、狭かろうが、そんな事は
どうでも良くなる。いかに滑らかに走るかが気になります。そしてうまく行った時は快感です。
そんな気分を味わってもらいたい。レースは快走だけでは勝てません。でも、スポーツクル
ージングは快走イコール気持ち良い。それでOKなのです。

上りはどんな風に走ったら気持ち良いか、ダウンウィンドの時はどうしよう。これらをスムース
に行かせるには、船底はおろか、あらゆる部分が、それを味わう為により良いコンディション
に保つ事を心がける。せっかくの風の時、船底が汚れていたりではどうにもなりませんからね。
一人の時、二人の時、或いはもっとクルーがいる時、いろんな場面が考えられますが、現実
として、今できる方法は何でしょうか?できる事を今楽しむ事が、理想への一歩だと思います。

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