第九十話 次世代のデイセーラー


      

ベルギーから次世代のデイセーラーと謳って昨年デビューしたばかりのヨットがあります。操作は簡単で、家族とのウィークエンドも楽しめて、しかも速いときた。何が次世代なんだろう?ちょっと調べてみました。ヨットはドマーニ30という30フィートのデイセーラーです。

写真を見るとモダンデザイン、スポーツカーの様な流線形、確かに速そうに見えます。バウにジェネカー用のポールが見えますが、固定式のバウスプリットもある様です。そっちの方が格好としては良さそう。内装はもちろんシンプルなのですが、ミニキッチンやテーブルもある。トイレは?仕様ではポータブルか、通常のマリントイレは設置できるかな?まあ、ここまでは他のデイセーラーとたいして変わりません。

さて、仕様書を見ますと、排水量が何と1,700kgと非常に軽い。そして、バラスト重量は600kg、にも拘わらず、セール面積は44uもあります。にも拘わらずと言うのは、これまでのセーリングに対する固定観念があるからですが、それは一旦忘れて、このヨットのコンセプトを見てみます。

速くする為には、船体の軽量化を図ります。そして、セール面積が大きい方が速い。しかし、事は単純には行かず、そのヨットがフルセールで走れる風域までは良いにしても、それ以上になるとスタビリティーとの関係でセールをリーフしなければならなくなります。だから、スタビリティーを上げる為にバラストを重くすると、それは同時に排水量の増加になってしまう。この関係のバランスをどう取るか?

1,700kgの排水量でバラスト600kgです。バラスト比としては35.3%ですから、昨今のクルージング艇より高いですが、ポイントはそこでは無く、セール面積とのバランスという事になります。スタビリティーの要素はキールデザインとか、いろいろありますが、ここは単純にバラスト重量対セール面積で見ますと、スタビリティーは相対的に低いと思います。じゃあ、駄目なのか?

このヨットのSADRは31.4ありますから、かなり高いです。という事はスピードを期待できます。フルセールで走れる限り、このヨットはかなり速いと言えます。しかし、風が強くなってきたら、スタビリティーが低い分、リーフを早めにしなければなりません。その時の走りはどうなのかです。

SADR31.4はかなり高いですが、これには理由があって、故意にセールを大き目にした。それでスタビリティーが低くなったものの、ここからですが、普通、フルセールを基準にしますが、でも、セールの面積は増減して調整するものです。フルセールが基準と考える必要は無い。簡単な話、セールが大きければ、軽風の時、フルセールにして他の艇より速く走れるわけです。強風の時はリーフすれば良いだけの話。つまり、例えば、フルセールでは無く、ワンポイントリーフを基準と考えるなら(実際は基準はありませんが)、そこから風が弱い時はフルセールにしたり、強い時はさらにリーフして面積を減らせば良いという考え方もできます。より大きなセールは小を兼ねるというわけです。小さいセールは大きくはできませんが、大きなセールは小さくできる。

これがこれからのハイスピードヨットの考え方になるのかもしれません。退屈だった微軽風に、このヨットはスイスイ走れるでしょう。風が強くなってきたら、他の艇より早めにリーフしなくてはなりません。しかし、それでも同等か、或いは、速ければ良いという考え方だと思います。何しろ1,700kgしかありませんから。まあ、強風に無理して走る事は楽しくありませんから、微軽風に強いヨットと言えると思います。このヨットの発想は、セールは増減調整をするもの、フルセールが基準じゃ無い。その時の風速に合う調整をすれば良いという当たり前の事を言ってますが、でも、スタビリテーとかスピードとか、普通はフルセールを基準に考えますよね。簡単な事ですが、その発想を変えたと言えるかもしれません。

例えば、今持ってるヨットがフルセールでスタビリティーが高いとします。そのヨットのセール面積をもっと大きくしたら、スタビリティーは低くなりますが、微軽風では今まで以上に速く走れます。でも、風が強くなったら、それまではフルセールで走れていた風速で、もはやフルセールでは走れなくなります。じゃあ、リーフすれば良いでしょうという単純な話です。でも、弱い風で速く走れるようになりました。強風ではリーフしますが、今まで通り走れますという具合です。




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