第八十八話 大きくても、小さくても自由自在!!


      

いつもお願いする回航屋さん、その時ばかりはいつもの相棒の都合が悪く、それである若者を雇ったそうです。彼は元アメリカズカップのクルーだった人物。しかし、驚いた事に、彼は基本的なヨットの操作においては下手くそだった。セーリング技術という面だけを見れば突出した技量の持ち主だったのだろうが、離着岸、ロープの取り方、安全への配慮、そういう事を知らなかった。

別に非難したいわけではありません。プロとなれば専門色が強くなります。彼は速く走らせる事にかけては高い知識と技術を持っていたに違いありません。でも、我々がヨットを楽しむにおいて必要な事は、狭い範囲の突出した技量では無く、自分のヨットを知り、自由自在になる事の方が重要です。マリーナを出て、セーリングを楽しみ、安全に帰って来る。この事こそが我々に自由自在感を与えてくれます。速く走らせる技術は、また別です。

自由自在になれば、そこからいろんな遊びに発展できます。クルージングも、レースも、セーリングも、ピクニックも自由自在です。自由自在であればこそ、それぞれのジャンルを学びながら上達する自分を楽しめる。この面白さに終わりはありません。生涯を通じて楽しむ事ができます。むしろ、それがヨットライフだと思います。ですから、まずは自由自在、セーリングが下手でも良い。本当の面白さはそれを学ぶ事ですから。

20フィートだろうが、50フィートだろうが、まずは自由自在を目指します。誰もがその気になればできる事です。小さなヨットはそれが比較的容易にできますが、大きくなると難しくなります。しかし、有難い事に、今日では様々なパワーアシストが用意されています。下の写真はイーグル54デイセーラ、このサイズでもシングルで自由自在が可能な時代です。

電動ウィンチはもちろん、メインファーラー、メインシートも巻き上げるだけでは無く、リリースもボタンひとつ。それに、バウとスターンにスラスターを設置して、理屈の上ではシングルハンドが可能です。いわゆる、プッシュボタンセーリングです。舵操作以外は手元のボタン操作で可能というわけです。ただ、理屈の上というのは、人の意識だけがまだ追い付いていない。54フィートというサイズをシングルでと言う事に意識が慣れていないだけです。その無理という意識さえ無くせば、シングルで容易にセーリングをする事ができます。

余談ですが、かつて53フィートをダブルハンドで乗っていました。昔は、ダブルハンドでもちょっと驚かれた時代でしたが、ある時、私の都合がつかなかった時、オーナーはひとりで出して、それ以降、時々シングルハンドでデイセーリングを楽しまれるようになりました。オーナーはあまりセーリングに詳しい方では無かったのですが、それが逆に幸いし、普通はこのサイズをシングルでは乗らないという固定観念が無かったんですね。もちろん、ウィンチは電動、メインファーラー仕様でした。でも、スラスターは付いていなかったんですが、出し入れは上手かった。どの程度の自由自在感を感じていたのかは解りませんが、後は、慣れの問題でしょう。

個人がヨットを楽しむという点において、サイズが小さかろうが、大きかろうが、自由自在になる事が重要で、それがあるから、ピクニックでも、クルージングでも、レースでも、セーリングでも、何でも発展させる事ができます。さらに、シングルを可能にしたら、いつでも、誰でも誘って一緒に楽しむ事ができます。だから、シングルの自由自在は万能と言えると思います。無理にでかいヨットをシングルでと言うわけではありません。自分がその気になれるサイズ、ボリューム感があると思います。ただ、現代の技術では可能だという事です。

でも、こんなヨットを、たった一人で、颯爽と走らせる気分はどんなものでしょうね?今日のパワーアシストの発展は、そういう時代の到来を予感させます。ひとりで乗るなんて無いと言われるかもしれませんが、それが可能な時代、それにゲストはクルーではありませんから。

昨今、ヨットが大型化していますが、どんなサイズだろうが、自由自在になれないと心から楽しむ事はできないと思います。その為に、クルーを集めるか、パワーアシストで補うか?或いは、サイズダウンするか?どれかを選択する必要があると思います。それに自分のヨットに自由自在になれば、セーリング以外でも気分が全然違ってくると思います。そして、そんなにでかいヨットで無くても、パワーアシストで自由になれるなら良いと思いますね。文明の利器は上手く利用した方が良いと思います。



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