第七十八話 写真とビデオの違い


      

ヨットを始める動機はいろいろです。昔、学生だった頃にやってたとか、友人に載せてもらって楽しかったとか、ただ、単に楽しそうだとかいろいろです。動機は何でも良いんですが、ヨットは基本的に長く続ける事によってのみ、本当の面白さが解ると思います。だから、長く続けられる、続けたいと思う動機が必要です。

昔はピクニック楽しいですよ、宴会もできます、別荘としても使えますなんて事を言ってましたが、最初は良いにしても、もはやそんな事ではヨットを長い期間楽しむ事はできません。それらが楽しい事は事実ですが、それだけでは何年も持たない。飽きてきます。だから滅多に動かないヨットになってしまう。ヨットを長期間に渡って楽しむに欠かせない要素は楽しさでは無く、ズバリ” 面白さ” に他ならない。

面白さをどこに見出すかはそれぞれですが、ある人はレースに見出すでしょうし、また、ある人はクルージングに見出す。そして、またある人はセーリングそのものに見出す。これらに共通している事は、その時の変化だけでは無く、長い期間に渡る変化の流れを見ている事、それはより多くを知る事であり、上手くなる事であり、より深い理解であり、自分の感覚が洗練されていく事であり、自分自身に進化が認められる事です。今日のセーリングがどうだったかもありますが、それだけでは不充分で、それを何度も重ねて行き、全体の流れとしての評価になります。面白さは長い流れの中にあると思います。

誰もが楽しい場面を想像します。ピクニックでも宴会でも。今日が最高に楽しかったとしても、それがずっと続くわけではありません。何度もやればやる程、楽しさは薄れて行きます。慣れてしまうからです。だからたま〜にしかやらなくなります。一旦、この路線に入れば、その間隔はどんどん広がって行きます。これは例えれば一枚の写真の様なものです。思い出です。記念写真の様なものです。それはたま〜だから良いんです。しかし、これは滅多に動かないヨットにしてしまいます。実際、多くのヨットがそうなっています。

ですから、面白さが必要なんです。せっかく手に入れたヨット、そのチャンスを得たわけですから、そこから得られる経験は、誰もが味わえるものではありません。言ってみれば選ばれし者だけが体験できる事です。せっかくですから、面白さを是非獲得して、長く楽しめる様にして頂きたいと思います。

誰もが楽しい場面としての写真の様な点としてしか想像しません。それが問題です。点と点の間の長い期間は無視です。点のみで捉えると楽しかった事もやがては薄れてしまいます。でも、ビデオ的線の想像をしますと、全体の流れを見る事になりますから、自分のセーリングがどのように変化して行っているのかが解ります。それが面白さになっていくと思います。より詳しくなっていく自分、解らなかった事が解って行く自分、自分自身の性能が上がってきている事が解ります。面白さとは、その一場面での変化が解るという事だけでは無く、流れとして進化している事、また、それがあるから一場面での面白さや楽しさもさらに進化していきます。

レースで勝つ事もあれば負ける事もある。クルージングでもいろんな処に旅をする。セーリングだって、吹く時もあれば吹かない時もあります。それぞれに、いろんな状況があって、良い時ばかりでは無く、いろいろありますから、それを長い間の流れとして引き受けて行く事が必要ではないでしょうか?そこには、点としての楽しさやスリルもあるだろうし、退屈感もあるかもしれませんが、全体としての進化の流れがありますから、そこにこそ面白さを実感できると思います。

取り敢えずセーリングできるようになる迄はいろいろ考え、工夫もされますが、一旦、そうなれるとその先には写真的点の想像しかしなくなります。それで、友人や家族を載せてピクニックしたりしますが、何度もやっていくうちに、考えてみたら、最初の頃の方が面白かったと思うのでは無いでしょうか? ですから、そこからビデオ的線の思考にして、自分のセーリングに進化を見出していく。そうすれば、吹く時は吹く様に、吹かない時はそのように、どれもがセーリングの一部ですから、そうすれば全体の流れとして、面白さを獲得できる様になると思います。ただ、これらも必死になってやるのでは無く、その都度を楽しみながら、長く繋いでいくという感じでしょうか?続ければ、必ず線になり、それによって自分自身の進化になります。ですから、今日のセーリングが吹かなかったとしても問題ではありません。次のセーリングも同じなわけありませんから。吹く時も吹かない時も、いろいろ味わってこそのセーリングだと思います。

いろいろ面倒くさいな〜と思われるかもしれません。でも、長く続けてみると、きっとその面白さが解ってきます。面白さって、やっぱり本気で遊ばないと手に入らないものでは無いでしょうか?ただ、続ければ良いだけなんですが。

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