第七話 ビッグデイセーラー


      

こんなでかいヨットをデイセーラーとして造り上げる発想はなかなか湧いてこない。元々、デイセーラーは小型でキャビンが狭いが故の呼称であった。当時、敢えてジャンル分けする為の呼び名であったかもしれない。しかし、今日のデイセーラーは純粋にセーリングを楽しむ事を最優先する。

デザインはパフォーマンスと美しいラインに現れる。それを許しているのは、キャビンの呪縛から自由になれたからだ。もはや、人間の身長やプライバシーの確保、居住性等に縛られる事無く、自由にデザインを施す事ができる。多くのデザイナーがデイセーラーをデザインしたがる理由もそこにある。デザイナーとして腕を振るい、ヨットの理想形に近づけると感じるからでは無かろうか?それはただスピードを狙うレーサーとは異なり、純粋にセーリングを楽しむ事を意味する。スピードを含む、ありとあらゆるフィーリングがあるからだ。

そして、今日、この考え方はビッグボートにまで拡大され、本来なら余裕でキャビンを造れるサイズだが、敢えて、キャビンはシンプルのままに抑えている。それは軽量化によるパフォーマンスの向上の為と見るべきだろう。このヨットに重厚なインテリアは必要無い。あらゆるスペースを有効利用しようとするのがこれまでのやり方だったが、デイセーラーには最低限必要な物があれば良いという考え方。見方によっては無駄なスペースと見れる部分もある。しかし、それは美しいラインの為と見るべきだろう。

もし、前後のオーバーハングを無くしたら、水線長はより長くなり、パフォーマンスは向上する。さらに、その内部のスペースを有効利用もできるだろう、しかし、この美しさは消え失せる。デイセーラーはパフォーマンスと美しさをバランスさせて、セーリングを純粋に楽しむ事を想定したヨットだ。何と潔い事か。

写真のヨットはオランダのイーグル54.昔のJクラスのデザインを彷彿とさせる。また、デイセーラーのもうひとつの要素は、操船面にもある。これだけのパフォーマンスとこれだけのサイズでありながらも、シングルを想定している。さすがにこのサイズだから、電動ウィンチや油圧等を採用しているが、舵を持ちながら、全て
のコントロールができる。もし、不安ならふたり居れば充分、或いはスラスターの設置も可能。

美しいヨットを自由自在に美しく走らせる。これこそがデイセーラー在り方だ。そして、最後にもうひとつ。デイセーラーのメインサロンはコクピットなのです。セーリングはもちろん、ピクニック、ランチやディナーもコクピットでなされる。キャビンを無視はしないが、少なくとも重視しない事が受け入れられる様になったからこそ、ヨットの魅力は新たな方向を持つに至る。



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