第79話 I am sailing

福岡のクルージング派にとって、沖縄にはいつかは行ってみたいと思います。あの美しい
透き通った海、珊瑚礁、あこがれます。そして、そこへ行くまでの間には、島々が点在し、
時間をかけて、ゆったりと回ってみるとどんなに素晴らしいでしょう。容易に誰もが想像で
きる世界です。だから、こういうヨットの乗り方にみなさんあこがれます。容易に想像できる
からです。そして想像できない事はできないのです。

さて、ある方が沖縄クルージング計画をされています。要する時間は3ヶ月。あっちこっち
回りながら、ゆっくり時間をかけて回ります。それも台風シーズンは行けません。もちろん
この方、引退された方です。結局、皆があこがれるロングのクルージングは現役で仕事を
している方には難しいのが現実です。欧米のように長期の休みを取るという習慣が無い、
我々日本人にとって、このようなクルージングはできないのです。

それならば、ロングは引退してからの楽しみにとっておきましょう。こう割りきるのが、ヨット
を楽しむ秘訣です。現役ならば、デイセーリングからウィークエンドセーリング程度を主体に
して、たまにちょっと足を伸ばす。その程度でも充分楽しめます。ロングとショートの違いは
何か?ロングはいろんな所を回りますから、それが楽しみです。でも、ショートで同じでは
いけないのです。何故なら、ショートでは行ける場所に限りがありますから、場所に重点を
置くと、2度、3度となると珍しくも無くなり、今度は食べる事や宴会に重点が移ります。
これも悪くは無いのですが、たまには良いですが、これももうひとつエキサイティングさが
無い。それではセーリングに重点を置いたらどうでしょうか?仕事が現役の方にはこの方が
良いのです。

セーリングに重点を置くと、行き先は二の次です。良い風を受けて、良い走りを楽しむという
のが目的です。その日の走れる時間によって、走れる範囲は決まってしまいますが、どこ
を走ろうと、快走して楽しむ事を重点におきますと、どこ走っても良いのです。まさしく風まか
せで、走るコースを決めていきます。セールを上げて、クローズから走る。クローズぎりぎりに
上らせて走る。シートを引いて、メイントラックを調整して、バックステーアジャスターを引いて、
最も滑らかな走りを目指します。時折、波が来る、ブローが来る。それに合わせて、ヒール角度
を一定に保ちながら走る。タックをする。これも滑らかな動きを、無駄なく、そうやって行くと、
帆走自体が面白くなります。スピード計があれば数値でスピードが解る。シートを引くとと速度
はどう変わるか、ヒール角度はどなるか、タックアングルは?こういう動きに集中していくと、
自分の腕が上がっていくのが解ります。前よりもうまくなっていくのが解るんです。ダウンウィンド
はどう走る?風があまり無い時はジェノアが垂れ下がってきます。風もあまり強く受けないので、
走りが少し単調になる。ジャイブを試みる。ダウンウィンドではジェノアを適切に開けない。ウィス
カーポールを使う?或いは、ジェネカーを使ったらどうか?ショートハンドで、どのように展開し、
ジャイブするか?動きの順番を考える。こういう工夫がうまく行って、ジェネカーを張る。ダウンウィ
ンドでのジェネカーの走りはまた格別です。確実にスピードが出ます。クルージング派はスピード
を気にしない?でも、スピードが出るという事は確実に滑らかな走りをしているという事です。抵抗
があれば、確実にスピードは落ちる。そういう意味でも、クルージング派の方々もスピードを目安
にしても良いと思います。もちろん、他のヨットより速いかどうかも気になりますが、自分のヨットの
常に最高に滑らかさを目指します。

こういうセーリング主体で、快走の結果、ついでにあの島に寄っていくか、というのも良い。ここまで
全くエンジン使わない。レースは良い走りだけでは勝てません。他のヨットとの駆け引きが必要です
でも、クルージング派のセーリングはとにかく良い走りを目指します。快走です。それだけで、しびれ
るようなセーリングができます。本当です。このしびれるようなセーリングを是非クルージング派の方
に味わっていただきたいのです。ただ、何ノット出たという数値だけの事を言っているのではありませ
ん。6ノットでた。7ノット出た。そんな事に集中しろと言っているのではありません。無駄の無い、滑
らかな走りを心がけていると、そのうち、心からしびれるような時が来ます。すべてが合っているとき
でしょうね。10ノット出た。すごいですが、スピードだけがしびれる目安では無いのです。実にスムー
スな走りを見せるときがあります。こういう時は舵を握って、神経が研ぎ澄まされ、集中しており、とに
かく何とも言えない快感なのです。これを体験すると、セーリングは止められなくなります。これが
セーリングの醍醐味のひとつです。現役の方はこれを是非体感して下さい。

こういう事をやっていきますと、セーリングの腕が上がる。自分のヨットが良く解り、本当に自分の物と
なります。解るというのは知識で解るという事と、体で解るというのがあります。何度も乗ると、セーリ
ングしていますと、体と心で解ります。

引退して、ロングに行く時、体でわかったヨット、セーリング、これがベースにありますから、どうしたら
良いのかが解ります。昔かの夢だった、沖縄へも、どこへでも行ける。そして、それさえも終わった頃
再び、ショートのセーリングに帰ってくる。ほんの数時間でさえも、どんなにヨットが面白いのかが心
が知っています。”I am sailing"

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