第55話 ヨットは縦社会

価値観というのはそれぞれが個人的に持っています。違って当たり前ですね。その違った
価値観を持っている者達がひとつのヨットに乗る。ヨットに乗りたいという価値観は共有して
いますが、細かいとこまで行くとやはり価値観は異なる。もっと速く走りたい、のんびり走り
たい、多少時化てても走りたい、ピクニック気分が良い。まだまだいろいろあるでしょう。
でも、ヨットは基本的に縦社会なのです。オーナーがこう走ると決めれば、クルーはそれに
従うのがルールです。

しかしながら、時代は変わってきました。クルー不足の時代。そうするとオーナーはかつて
のような縦社会のボスでは居られなくなります。どちらかというとクルーの都合に合わせる
事も多くなる。オーナーは今日はしっかりとセーリングしたいと思っても、クルーが"済みま
せん、友達の女の子も連れてきていいですか”となると、嫌とは言えない。それで、今日は
のんびりピクニック気分となります。ヨットは本来は縦社会なのです。オーナーが全て、責任
もオーナーが全て取る。ただ事情が変わってきた。ヨットは縦社会である事によって、オーナ
ーは自由自在にヨットを操る事ができた。同時に危険も回避する事ができたわけです。その
下で鍛えられたクルーは、やがてオーナーになる時に経験が物を言うことになります。

何も権威を振り回す事を奨励しているわけではありません。時代の流れですから、仕方が
無いのです。今更オーナー風を吹かせても誰もついてこない。そこで、小人数、それも本当
に価値観の近い、ヨットに関してですが、そういうパートナーと一緒に乗れると、俄然面白く
なります。再び、自由に乗れるようになる。でも、なかなかそういうパートナーを見つけるのは
難しい。一番良いのは奥さんがヨット好きなら結構ですが、なかなかそうはいかない。暑い
だの日焼けするだの、思うようにはいかないのです。

それで行きつく先はシングルハンドとなるわけです。自分がボスであり、自分がクルーでも
ある。自分で命令して、自分で動くのですから、誰も文句は言わない。それで、シングルハン
ドを可能にするヨット、艤装を考えそれを主体にする。頭は一人で乗る時と、ゲストを呼んだ
時とを切り替えて、それに合わせて乗る。

もし、ラッキーにも、自分にピッタリのパートナーが見つかったなら、ダブルハンドでのヨットを
考える。でも、これもなかなか難しい。大の男が二人。余程、尊敬しあうようなパートナーで
なければ、自由自在にはならないものです。この時でも、オーナーがボスでなければならない
それで、共同所有なんて事を考えると、余計難しくなる。優劣がはっきりしていないといけま
せん。オーナーがボスでなければいけません。そしてクルーはオーナーに一歩譲るぐらいの
気持ちが必要です。

こんな面倒な事はやめて、気軽なシングルハンドを目指せば、誰でも気軽にヨットを楽しめる。
ですから、誰にでも、シングルハンドをお奨めします。そして、気の合うパートナーが見つかっ
たら、その時は一緒に乗れば良い。パートナーと出会うまでにきっと何度も一緒に乗るでしょう。
そうしたら、解るものです。オーナーの性格を知り、パートナーの性格も解る。いつも一緒に乗れ
るかどうかが自然にわかる。

縦社会だからと言って、どなりちらすわけでは無い。クルーは自然にオーナーの意を汲んで、
そして、クルー自身も楽しいと感じる事が必要ですね。

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