第11話 独り言

レーサーとクルージングという事をあまりにも別扱いしてきたのではないだろうか。クルージング
というと、すぐにどうせクルージングですからと、セーリングをする事を重要に扱ってこなかった。
これは業者と造船所の責任ではないかと思う。

バックステーアジャスター? そんなもの要らないでしょう、クルージングですから。確かに、
付いていないヨットが多い。メインシートトラックも、コクピットにあったら邪魔ですから、キャビン
トップにあった方が良いですよ。と言う。クルージングですから。それに長い間慣らされて、既存
のオーナーさんも同じ事を言われる。知らない方が、今から始め様として、業者もオーナーも
同じ事を言えば信じます。でも、クルージングという言葉で、造船所も業者もあまりにもセーリン
グという事を抑えてきたのではないかと思う。セーリングから遠ざけてきたのではないか、そして
それに慣れたオーナーの方々も疑わなくなってしまった。同じヨットなのに、ヨットと呼ぶから、
一応マストとセールをつけておくか、でも、強調するのは、キャビンばかり。キャビンライフばかり
を強調して、冷蔵庫付いてます。独立トイレです。ガスコンロにオーブン、広い空間とバースの数
これなら何人寝れますよ。どうですか? 良いでしょう!

誰もセーリングの事なんか言わない。こういう事がセーリング離れに繋がっていると思う。もし、
全ての業者が、セーリングにつて、もっとアドバイスをしてきたなら、もっともっとセーリングを楽し
むオーナーがおられたのではないかと思うのです。キャビンライフばかりを強調して、それで、
少なくとも、みんながキャビンライフを楽しんでいるのなら、それはそれで結構、これもヨットのひと
つの使い方かもしれません。しかしながら、殆どがそういう使い方をしていないのです。みんな
忙しい。忙しい時の合間に、ちょっとマリーナに来て、1,2時間キャビンで過ごそうと思うだろうか?
はなはだ疑問です。どんなに快適なキャビンであっても、そこにちょっと過ごす為には来ないと思う
のです。でも、セーリングが面白いと思ったなら、1,2時間、ちょっと走らせて来ようとは思うのでは
ないか。そう思うのですが。

ところが、誰も、セーリングは面白いよとは言わなかった。キャビンしか言わなかった。セーリングは
簡単で、風上に立てて、メイン上げて、ファーラーのジブを出して、そして行きたい方向へ行けば良い
ただ、それだけ。風に吹かれて爽やかな時もあるだろう。でも、決して、チャレンジでは無いし、エキ
サイティングでも無いのです。それで、オーナーはある程度そういう事になれてしまうと、退屈でしょう
が無い。考える事は、あの島に渡る事です。それしか使い様が無いからです。漫然としたセーリング
行きつく所は遠くへ行きたいとなるのは当りまえなのです。ところがですね、暇が無い事に気づく。
そんな暇は年に1回か? それで、日常は退屈だから、たまに友人を呼んだ時だけ、ご馳走一杯
用意して、クルージングに出る。これも楽しい。でも、日常はヨットなんか、退屈なものを相手にして
いるより、面白い物が一杯、他にある。

キャビンライフは日本人には不向きなのです。朝から晩まで,ヨットに居て、しかもしょっちゅうです。
快適に楽しいと思いますか?退屈してきませんか?欧米人はそれを楽しいと思っているのでしょう。
マリーナには、たくさんの人達が居ます。1日中、ヨット、マリーナで過ごしているのです。1日ぐらい
なら、過ごせるでしょう。でも、しょっちゅうできますか?私は無理です。できません。退屈です。
もちろん、マリーナの環境にもよるでしょう。海外のマリーナはにぎやかで、周りにレストランや、様々
な施設、店等がたくさん隣接している。でも、日本ではなかなかそういうマリーナは無い。

こういう事を考えると、日本人には、セーリングの楽しさを知ってもらうのが最も良いと思う。クルージ
ングだからと言って、セーリングをないがしろにするのは大間違い。クルージングはレースに出て勝つ
為のヨットでは無いというだけで、セーリングをしないのがクルージングでは無いと思うのです。
だから、クルージング派の方ももっともっとせーりんぐについて勉強すべきだし、業者もそのような意識
に変わるべきだと思う。そうでないと、ヨットはただの、ヨットの形をした家になってしまう。

何もプロを目指すわけではありません。ただ、セーリングを知って、自分のレベルを少しづつ上げて行
こうという意識を持って、セーリングを楽しもうと思ってもらえれば良い。そうしたら、ちょっと、1,2時間
でも出してセーリングしてこようかと思うようになる。そうなれば、マリーナは活気づきます。オーナー
ももっとヨットを知ろうと思う。そうしたら、どんなヨットが良いか、自分の求めているヨットはどんなヨット
か、というのが解ってくる。今、オーナーと話をすると、あそこに行ったとか、こっちに行ったとか、水
がきれいだったとか、食べ物がうまかったとか、そういう話です。いやあ、この間は良い風吹いて、
とても良い走りだったとか、こういう場合はどうしたら良いかとか、そんな話は殆ど無いのです。しかし、
こういう意識でみんなが乗ると、そういう話題に必然となる。そして、このセーリング、デイセーリングは
誰でも、ちょっとした暇さえ作れば可能となる。これさえできないなら、ヨットはやめた方が良い。

オーナー同士の話も、セーリングの話題、それらが多くなると、メインテナンスの話題にもなるでしょう。
艤装の話題、ヨットの話題、そういう環境で、オーナーももっと楽しみながら、知識を得、それを試し、
成長していく。今のクルージング艇の方向性は間違っている。これから先、どんなに便利になろうが、
どんなにキャビンが大きくなろうが、日本ではヨットは使われない物となる。ヨットの形をした家でしか無い

その為に、最初の1艇は取り扱いのし易い小型艇が良い。セーリングを主体に考えられたヨットが良い。
スタビリティーが高く、小さいジブと大きなメイン、ティラー式で、セールコントロールが容易にできて、シン
グルハンド仕様が良い。これで、セーリングの醍醐味を覚えて、深さを知って、自由自在に走れるように
なると良い。そうすれば、この先大きなヨットにするにして、どんなヨットが良いのかが解る。乗れるから
最初から大きなヨットというのでは無く、小さいヨットの方がセーリングの醍醐味を気軽に味わえるから
です。この為にキャビンが狭いなら、それでも良くはないですか?どうせ使わないキャビンです。セーリン
グの後に、ちょっと寛げればそれで充分ではないでないでしょうか。

そして、この小型艇を充分使いこなす事ができたら。十分セーリングを堪能したら、それから、俺は外洋
を目指すという人も出てくるでしょう。俺はヨットに泊まりたいと思う人もでるでしょう。メインテナンスを勉強
したという人も出るでしょう。どんな物であれ、使い方に、接し方にバリエーションが出てくる。俺は、小型
で良いが、もっと違うタイプに乗りたいと思うかもしれない。いずれにしろ、自分を知って、ヨットとの関わり
方がどんなだったら良いかが解る。

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