第三十一話 それで良いのか?


      
つい最近、本屋からヨット雑誌が消えた話を書きましたら、普段の時より少し反応が多かった。誰もが今の傾向に気が付いている。それを良しとは誰も思っていない。オーナーの高齢化、それに対して世代交代がうまく行ってない。若い人達がヨットに来ない。でも、若者が仕事ばかりして遊んでいないわけじゃない。その証拠に、パワーボートの方はヨットの様な減少傾向にあるわけじゃない。

小型船舶の登録によると、平成23年度の新艇ボート登録は1,789艇に対し、新艇ヨットの登録は94艇であった。それが平成27年度では、ボートは1,899艇に増加しており、ヨットは57艇と激減してしまった。何が問題なのか?ヨットは難しいとか、面倒くさいとか、もっともらしいコメントも聞かれるが、それは昔も同じ事。むしろ、今の方がもっと操船は楽になった。それで、考えてみると、原因はヨットの進化の方向性にあるのではなかろうか?その結論は便利や快適性を追及し過ぎた?のではなかろうか?

メインファーラー、電動ウィンチ、バウスラスター、エアコン、広〜いキャビン、充実ギャレー、温水等々。これらは便利だし、快適にできるし、良い事だからけに見える。でも、人の視点がセーリングから便利や快適に向かい、ヨット本来のセーリングの心地良さ。セーリングの面白さから遠ざかってきてはいないか?そして、その結果、その便利さを享受するなら、ボートの方が遥かに便利だという事に気が付いてしまった。どこかに行くにもスピードが違う。計画を立てやすいし、その分、時間を有効に使える。

便利装置が悪いわけじゃない。でも、今時の広すぎるキャビン、幅と高さの過ぎる変化はセーリングを阻害すると思ってます。同じ全長だとしても、幅の広い事、デッキの高い事、この結果大きなボリュームになってしまった。このボリュームから来る圧倒感は半端ない。でも、大丈夫、スラスターあるし、ウィンチは電動だから? 

昔のヨットは今のヨット程でかくは無かった。それでも、十分キャビン内で真っすぐ立てたし、クルージングでも困らなかった。広いキャビンは好意的に迎えられるが、それで失ったものもないだろうか?寝泊りするなら便利、別荘にするなら便利、でも、それならボートの方が良くないか?25ノットで走れば、日帰りでも結構行動範囲が広くなる。

最もポピュラーな沿岸用クルージング艇がみんなそうなんだから、こちら側に選択の余地は無い。それは寝泊りを普通にする欧米人でも同じ事。単純に広ければ良いってわけじゃない。だから、欧米でもヨットは減少傾向にある。それで、ヨット専門だった造船所もパワーボートを造り出した。また、一方では、もっとセーリングを堪能できるデイセーラーに移行して行くオーナーも少なくない。便利は良いけど、セーリングを阻害してはならない。もっと気軽に出せて、最高のセーリングを感じたいんです。それがヨットを選択する最大の理由になる。

舵を取って、シート操作して、自分の手に、体に、セールフィーリングをより感じたい。それがセーリングの面白さであり、ヨットならではの特性でもある。ヨットをもっと増やす方法は、何よりもセーリングにおいて、気軽に、誰でも操作ができて、それでいて、セーリングの躍動感を味わえるヨットでなければならないのではなかろうか?

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