第七十九話 デイセーラーを選択する七つの理由

先日のタモリカップは日本一楽しいヨットレース。115艇が一斉にスタートする様は圧巻、全体的に緊張感が溢れ、みんな真剣だった。そして、その後に緩和がやってきます。それこそが面白さの秘訣ではないでしょうか? 面白さには、必ず、何らかの緊張と緩和があると思います。それが無い面白さなんて有り得ない。そして、これは楽しさとは違うレベルの感覚です。

レースが終わって、再び、日常に戻ります。もし、日常におけるセーリングにも、緊張感を持てれば、面白さを味わう事ができると思います。緊張と緩和を楽しむ事ができると思います。

さて、その日常を重視したのがデイセーラーです。レース以外の日常において、どうヨットを楽しめるか? 本当は、そこが最も重要な処ではないかと思います。たまのイベントを楽しむのも、もちろん楽しくて良いのですが、でも、日常をどうするか? そこが最重要課題と考えて造られたデイセーラー。日常が充実していれば、イベントは当然、もっと楽しめる。

では、何故、デイセーラーなのか? 

シングルハンドが容易
前話にも書きましたが、デイセーラーの核はシングルハンドセーリングにあると思います。それは、他のセーリングとは異なる様相をもっています。操作性やフリーボードの低さ、スピード感、滑らかさ、それらがセーリング感を高揚させてくれます。その上で、セーリングを真剣に緊張感をもってできるのがシングルハンドです。ですから、どんなにでかいデイセーラーでも、どんなにハイパフォーマンスでも、全てシングルハンド仕様にしています。そこには、必ず、緊張と緩和が創られる。だから、そこに面白さがある。シングルで自由自在、これこそがデイセーラーの真骨頂だと思います。そして、誰でもそれができる様になっています。


サイズ
今日では、20フィートぐらいから、大きいのは60フィートクラスまで建造されるようになりました。つまり、サイズはお好みの自分サイズを選択する事ができます。多くは30フィート前後に集中していますが、欧米では、時に、でかいヨットを求める方もおられますので、そういうサイズも造られるようになりました。デイセーラーの意義はサイズでは無く、そのコンセプトにあります。


パフォーマンス
クルージング艇クラスのパフォーマンスから、レーサー/クルーザークラス、さらに、レーサーレベルのパフォーマンスまであります。しかも、全てシングルハンド仕様。例え、クルージング艇クラスだとしても、低いフリーボードは、海面に近くなり、その感覚の違い、スピード感の違い、スタビリティーの違い、そういう要素が、よりセーリングの感覚を高揚させてくれます。遊びにおいては、感覚こそが重要です。 さらに、セーリングに滑らかさがあり、これは、船体が強固に造られた結果もたらされる滑らかさです。


メインテナンス
セーリングに関する装備は充実してます。コクピットも広い。しかし、クルージング艇ならキャビン内にあるであろう装備がありません。必要無いと考えます。だから、メインテナンスも軽減される。だから、もっと気楽になれます。あったら良いなと思った装備、冷蔵庫、温水、シャワー、等々、これらが日常に本当に必要だろうか? ガスコンロさえ、今日ではあまり使われていないし、使うにしてもポータブルを持ち込む。その方が楽だから。そういう不要な装備を排して行けば、何と気軽になれるか。しかも、やっぱり必要無かったと思える時、シンプルにセーリングを楽しめるようになれると思います。基本的には、バースとトイレがあれば良い。

クルージング
遠くに、長期に行く暇は無いが、近場ならたまにはクルージングも良い。だったら、デイセーラーでも充分行けます。実は、昨年、29フィートのデイセーラーで太平洋を横断した人が居ました。デイセーラーだって実際はできる。でも、装備、キャビンの広さ等が、そういう設定を考えていないだけです。だから、近場なら、装備も要らないし、キャビンも狭くても気にならない。と言っても、でかいデイセーラーはそこそこありますが。ただ、デイセーラーにとって、クルージングが主ではありません。それもできる程度であり、主はセーリングに面白さを獲得する事です。


レース

欧米でも、盛んにデイセーラーのレースも行われています。そのパフォーマンスで充分楽しむ事ができる。参加艇によってはトップにもなれる。しかし、基本的な軸はレースには置いていない。日常のセーリングを楽しむ事がベースです。ヨーロッパの超ハイパフォーマンスデイセーラーも、その8割程度はシングルや家族とのデイセーリングに使われています。


美しいデザイン
キャビンの広さや天井の高さを気にしないで良い分、デザイナーは美しいラインを引く事ができる。ヨットが遊びであるが故に、この美しさはとっても重要な要素です。クラシック、トラディショナル、モダン、また、それらの融合と、きっと気に入った一艇が見つかると思います。気に入った美しさ、カッコ良さ、これはとっても大事な要素です。


大洋を渡るヨットも良いかもしれませんが、誰もが必要なわけじゃない。レースをやるのも良いんですが、誰もが、そこに没頭する必要も無い。広いキャビンのヨットを別荘にするのも良いが、誰もが、それで楽しめるわけじゃない。だから、いろんなバリエーションがあります。その中で、デイセーラーは、セーリングを軸として、そのエキゾチックな体験を自分のものにする為のヨットです。知性と感性を遊ぶヨットです。それが、今日、世界に広がっています。何故なら、こういうヨットは不思議と、これまでには無かったからです。セーリングを純粋に味う。それがデイセーラーです。とっても自然な事だと思います。余分な物を削ぎ落として、スッキリ、シンプルに、何と言っても、気軽に楽しめる。美しいヨットを美しく走らせる。それがデイセーラーセーリングです。もちろん、緊張と緩和を遊ぶのがその軸にあります。

これまで、いくつものデイセーラーをご紹介してきました。世界にはまだまだあります。ですから、今後も続けていきたいと思います。世界には、こんなにデイセーラーがあるのかと知って頂きたいと思います。そして、こんなに増える理由もあります。世界は変わりつつあります。楽しさももちろん良い、しかし、世界は面白さにやっと目覚めてきた。それは、緊張と緩和を携えたセーリングを時折でも味わう事です。その面白さがあるからこそ、人はセーリングに魅了され、充実感を感じ、永く続ける事ができる。だからデイセーラーなのだと思います。

次へ       目次へ