第六十話 違いは何か?

一般的な沿岸用のクルージング艇でも、セール面積排水量比が20前後というのもあります。これは例えばアレリオン28なんかに匹敵するものです。だから、セーリングは同じかと言いますと、様相は全然違います。車だって、セダンの200馬力で、スポーツカーの200馬力等がありますが、でも、これらは同じではありません。

スポーツカーは重心を下げ、ボディ剛性を高め、足回りを強化したりします。それは走る上において、エンジン馬力だけが全てでは無いからです。ヨットも同じで、ボディ剛性を高め、重心を低くします。また、排水量は当然軽く造りますので、そのうえで、セール面積/排水量比が同じだと言う事は、その分、セール面積が小さくても、同じ性能を得ている。つまり、扱い易いという事になります。

重いヨットのセール面積/排水量比を高めようとするなら、どうしてもセールをでかくしなければならない。そうなると、取り扱いもそれなりになる。デイセーラーはシングルハンドが前提にあるので、セールをあまりでかくすると、取り扱いが大変になるので、それはちょっと困る。よって、排水量を軽くする事で、パフォーマンスを上げて、セールはそれほどでかくしない。

軽くする要因は様々ありますが、一番はキャビン。内装をシンプル化する事でかなり削減できる。典型として、アメリカのHOOD 32というヨット。32フィートのヨットですが、キャビンは一切無し。
排水量は、わずか1、200kg強、このヨットのセール面積/排水量比は、23あります。結構スポーツ度が高い。スイスイ感が感じられる。ところが、セール面積は285sqft(26u)しかありません。これは、同サイズ程度の沿岸クルージング艇の、半分程度、メインセール一枚程度、それを
ジブとメインで分け合っている。どれだけ操作が容易であるかが想像できます。しかも、低い重心、
高いボディ剛性、セーリングに関してなら容易に違いが想像できます。

セール面積/排水量比は、そのヨットのパフォーマンスを表す。しかし、数値だけでは無く、海面に近いコクピットは、スピード感が高まるし、海面が近いので、フィーリングとしても気持ちが良い。おまけに安定度は高いし、ボディ剛性が高いので、セーリングに滑かさを感じる。さらに、シングルでも、簡単に操作ができるというもので、セーリングを一番に考えて設計、建造されてます。もちろん、キャビンはその分犠牲にしていますが、でも、近場のセーリングなら、セーリングを犠牲にしてまで拡充する必要は無いと考えている。だからここまでできるとも言えますが。まあ、上記は極端な例ではありますが、デイセーラーの基本的考え方は、キャビンよりもセーリングにある。

だから、これは車で言う処のスポーツカーとおなじ分類になる。走りを楽しむ為のヨットです。コンバーチブルのスポーツカーを走らせる。そんな感じです。スポーツカーは実用性は低いが、何といっても、その魅力は遊び心にある。まして、ヨットなら、実用性なんか、あまり考える必要性は無いのではなかろうか?だから、遊び心満載にして走った方が面白いのではなかろうか?

仮にクルージング艇と同じセール面積/排水量比だったとしても、デイセーラーのセーリングの様相は全く異なる。それはセーリングに重点を置くか、キャビンに置くかの違いで大きく現れている。だから、どっちが優先かという問題で判断できます。キャンピングカーとスポーツカーの違いです。

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