第五十八話 実用性

本来、ヨットという乗り物に実用性があるのか? もちろん、大海を渡るという様な時には、その実用性が物を言う。しかし、そういう方々はほんの一部であり、我々の殆どには関係が無い。時々、日本一周をされた方の話を聞く事もあるが、それも一部、距離が短くなるにつれ、実行者は増えど、でも、大半はそういう事をされる事は無い。

その中で、最も近距離に居るのが、デイセーラーかもしれません。距離が遠いと実用性は重んじられ、近くなるにつれて、そんなものは必要無くなる。では実用性とは何か?

デッキの上に出ると、それはまさしくヨットでありますが、キャビンに入ると家であります。ヨットの実用性とは、まさしく家の事を言っているわけで、それはヨットである事とは関係が無い。家なら、広さであり、部屋の数であり、ギャレーであり、トイレやシャワー、おまけに温水、エンターテインメントも重要ですから、テレビ、オーディオ関係、さらに言うと、エアコンであります。これらの装備が整うほどに、実用性が高まる。

つまり、実用性とは、本来のヨットには関係無い処にあり、それはヨットと家がくっついたもの。ヨットにセーリングを求め、家に快適性を求める。それで、特に最近では、ヨットである事よりも、家である事の実用性と言いますか、快適性に重きが置かれてきた。

日本でヨット離れが進むのも、ひょっとしたらそういう処に原因があるかもしれません。21フィートのヨットが売れなくなってきたのも、ヨットである前に、家としての快適性を考える様な風潮が出てきたせいかもしれません。もし、家だとするなら、それゃあ、広いに越したことは無い。快適に越した事は無い。そうなると、小型より、少しでも大きい方が良いという事になる。

しかし、その実用性とは、本当に実用的なのか? キャビンの家としての機能を満喫しているのか? 実用性とは、本当に使うという事においてその性能を見るものであり、使わない限り、実用性もへったくれも無い。

何故、こういう事を書くかと言いますと、もちろん、キャビンを満喫しても良いのですが、風潮的に、キャビン重視が過ぎるのではないかと思うからであります。ヨットはキャビンじゃ無い。ヨットはセーリングであります。何故なら、セーリングはヨットじゃないと味わえないからです。そのヨットじゃないと、というのが、ヨットがヨットとして存在できる理由です。簡単に言えば、いかなるセーリングであろうと、セーリング自体を味わう事が、ヨットならではの体験だからです。

そうは言っても、各人の自由ですが、もっとセーリングを重視してもいい。そういう風潮が来てもらいたいと思う次第です。キャビンよりもセーリング重視という風潮です。何故なら、日本では、キャビン重視はするものの、あまり使われてはいないと思うからです。

さて、それは兎も角、車にロードスターというジャンルの車があります。いわゆるオープンカー、最近では、コンバーチブルとか、カブリオレとか言います。屋根が開閉される車ですね。美しく、かっこいいスタイル。その真骨頂は、ドライビングにあります。荷物はあまり載せられない、乗員は二人しか乗れないというのもある。実用性は低い。しかし、そのフィーリングは素晴らしい。セカンドカーだったら、実用性なんかどうでも良い。美しく、かっこよく、ドライブフィーリングが良い。これらは、実用性とは関係無い。でも、だからこそ良いとも言える。

ヨットに実用性は重要だろうか? 必要ないとは言わないが、重要だろうか? セーリングより重要だろうか? セカンドカーには実用性よりも遊び心が重視される。何故なら、その方が心が踊るから。ヨットは純粋に遊びの為、そこに実用性を優先させると、心は遊べなくなりはしないか? セカンドカーは無駄な長物、ヨットも無駄な長物、でも、心が踊る。

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