第五十三話 科学的アプローチ

理想的な想像を現実に落として行く場合には、科学的アプローチが必要になる。どんな時にもスイスイは理想ですが、それをする為には、セーリングを科学的、理論的に考える事になる。

セーリングを経験から、試行錯誤しながら創る方法もある。それを楽しみながらやるというのも良いと思います。しかし、、一方、セーリングを科学的にアプローチする方法があり、効率を考えると、その方が早道ではある。もちろん、必ずしも早道が良いとは限りませんが。楽しむ事が一番ですから。

大雑把な話、水流も風も、それぞれが、スムースに流れていくようにする。きれいに流れて、揚力を発生させて、それを前進するパワーに変える。流れが乱れるとパワーが落ちる。水流に関しては、船底形状を変えられない。しかし、船底を水流がスムースに流れるように、きれいな状態にしておく必要がある。これが汚れると、かなりの抵抗を造る事になる。水は空気より密度が確か800倍ぐらい高いので、その抵抗たるや、物凄く大きくなる。また、それが為に、あの小さなプロペラでも、大きなヨットを走らせる事ができる。まあ、セーリング中はプロペラが大きな抵抗になるので、フォールディングは良いかと思います。

さて、風に関しては、風がセールの裏表をきれいに流れる。風とセールの角度によってはそうならないし、セールの形と風速によってはそうならない。よって、それをきれに流れるようにする必要があるし、その上で、それが解った上で、発生させる揚力のパワーコントロールをする事になる。

スピード命では無いにしても、より速さを求める操作をして、その上で、いろんなバランスを考慮して、自分の思い通りのセーリングができれば理想的です。そういう事を考えながら、試行錯誤をする事自体がセーリングを楽しむ醍醐味ではないかと思います。より良い結果を求めながら、そこへのプロセスを楽しむ。

風はセールのラフ部から入り、リーチ側に向かって流れる。その間にセールカーブがあって、そのカーブが大きいと、揚力はより大きなパワーを生み出す。そして、そのドラフトの位置も関係してきて、ドラフトの深さはパワーですが、その位置は方向性に関わる。ドラフトが後ろ側にあると、前進する力よりヒールする力に作用していく割合が大きくなる。だからと言って、前過ぎると、風がきれに流れなくなったりします。よって、中央からやや前ぐらいと言われます。

さらに、セール全体の角度もあります。風向に対するセールの角度、理屈を知った上で、試行錯誤を楽しみながら、走る状態を見る。そんなこんなで、そのヨットの性格とか性能とかが分かってきて、もちろん、自分の腕前も解ってくる。ヨットの性能は変える事はできないが、自分の腕は変えられる。そこから発展していくとしたら、遊ぶのはその発展の部分。これからの試行錯誤を遊ぶ事になります。

ある日、気がつくと、以前より、確実に上手くなっている事が解る。より繊細さを感じ取る事ができていたり、より、強風でも平気で走らせていたり。そして、当然ながら、セーリングの味わい自体も以前とは違う。スイスイ感が増してきて、自由自在感を感じてくる。

セーリングは科学的アプローチによって発展し、その発展の成果は感覚的な味わいとして得る事ができる。この両方が同時進行していく。これは言うならば、自分自身の進化であり、究極の面白さはそこにあるのかもしれません。セーリングをより深く知る自分、それに対応できる自分、そして、全体を感じ取る鋭敏さ、ヨットは買い替えでもしなければ変わらないが、自分は進化できる。それ以上に面白い事は無いのかもしれません。

昔、違いのわかる男というフレーズのコマーシャルがありましたが、まさしくそれで、セーリングにおいて、違いのわかる男というのが理想形なのかもしれません。簡単な話、自由自在をどんどん高いレベルへと進化させていくという事になると思います。

しょっちゅう、ちょっとの時間でも乗り、それを何年も楽しみながら続け、それも想像と科学を意識して続けますと、必然的にそうなっていく。スイスイと自由自在、微風時は微風時の様に、強風時は強風時の様に、ゲストが居ても居なくても、シングルでもダブルでも、いかなる時にも、楽しむ術がを知っている。そうなれれば良いですね。デイセーラーセーリングの理想形です。

セーリングは想像に端を発し、科学的に進め、同時に感性に影響を与え、そのバランスの上に、人間の楽しみが創造されます。科学的アプローチを有効に使う事によって、感覚的刺激をより良いものにする。最後は感覚的に気持ちが良いとか、面白いとか、そういう事が重要ですね。その為の科学です。科学的に速いから良いというわけでは無い。科学と感覚のバランスだと思います。
そういう意味では常に、科学と感覚を意識しておいた方が良いのかもしれません。今、楽しいか?面白いか?恐怖か?退屈か?等々。では、どう科学的にアプローチしようか?と考えた瞬間、少し面白さを感じたりします。

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