第二十六話 スタビリティー

微風だったら関係無い。でも、強風になったら、スタビリティーが物を言う。強風において、安定して走れると安心です。このスタビリティーはバラスト重量と、船体の幅と重心の高さ。バラストが重ければ重い程、船体の重心は下がりますが、バラストを除いた船体の重心位置も関係する事は言うまでもありません。そして、それに対するセール面積の大きさです。しかし、バラスト重量と幅は明確に知る事ができますが、重心の高さというのは解らない。それも、どれだけセーリングに影響を与えるのか、数値で比べる事ができません。

幅は広ければ広い方が、ヒールに対する抵抗になります。また、船体の重心も低い方が良い事は言うまでもありません。しかし、実際の使用にあたっては、そのコンセプトによって、いろんな条件がつきまといます。

デイセーラーで言いますと、バラストは重目、船体の重心は低い。しかし幅は狭い。もちろん、シングルハンド仕様が前提ですから、幅が広すぎると、いろんな艤装に手が届かなくなる。舵を持つ手の事もありますから。よって、幅によるフォームスタビリティーは低い代わりに、バラストを重くし、船体重心を極めて低く取る。幅が狭いから、初期ヒールはし易い。しかし、初期ヒールは風がそんなに強くない時であり、軽風なら故意にヒールさせたい事もある。それで、強風になってきますと、キールが横に張り出して来ますから、バラスト重量の重みが効果を発揮してきます。デイセーラーはシングルハンド前提によるセーリングの事を良く考えてあります。

クルーが居るなら、幅を思い切って広くしても良い。クルーが操作をやってくれます。でも、幅を広くしますと、その分重量が重くなる。だったら、ハイテク技術で船体を軽く造るか、セール面積をでかくする。或は、両方。操作においても、クルーが居るならシングルとは違う。幅でスタビリティーを稼いで、重くなるので、バラストを軽くする事で補う事もできる。それに、クルーが居るならクルーの移動も考えられる。

いろんな手方が考えられて、どこでバランスを取るかが非常に難しいし、その検討の結果出てきたモデルがその造船所のコンセプトになります。どれがより良いというより、自分のコンセプトを明確にして、それに合うヨットはどれかと考えた方が良い事になります。コンセプトに良いも悪いもありませんから。

よって、セーリングを求めるか、居住性を求めるか、どっちを優先するか? 結局、そういう事になっていくのだろうと思います。それで、プロダクション艇をつぶさに見て、どれにも満足しない人は、カスタム艇を造るという方向に向かい。まあ、日本では殆どおられないでしょうが。

カスタム艇になると、セーリングの要素を見込み、自由にデザインする事ができます。微軽風でもそこそこ速くて、しかも、強風でも抜群の安定性を持つ。そういうヨットを造る事も可能になります。しかし、求めた要素が高ければ高い程、コストもかかる。それは仕方無いですね。そういう理想的なヨットというのは、価格面を考えると、プロダクション化は難しい。

それで、既存のプロダクション艇で何とかしたい。それが、セール面積/排水量比 20前後。強風に強く、ある程度スポーティーさを兼ねる。そして、微軽風に不満が残るなら、微軽風用セールを展開する。それでも、不満なら、セール面積/排水量比を25前後にという処ではないかと思う次第です。

セール面積/排水量比が15前後になると、これは本格的な外洋ヨットの数値になるし、30前後になるとレーサーの数値になる。前者は、微軽風でのセーリングはもっと遅くなるが、強風には極めて強くなります。後者は、微軽風でより速く走れます。もちろん、デイセーラーだったら、バラスト重量も重い。でも、それでも、強風になりますと、早目のリーフというのは必要になるかと思います。前者の例はノルディックフォーク25で、メインセールにリーフがありません。必要ないとされます。後者の例は、ディナミカ940で、速いヨットです。早目のリーフと言っても、それでも速い。

その他のデイセーラーモデルは、全て、20前後〜25前後の中にあります。みんな重いバラストと低い重心です。そして、全てがシングルハンド仕様を前提にデザインされています。

本当は、明確にスタビリティーを数値計算できれば、そのセール面積との関係で、スタビリティーが解るのですが、残念ながら幅がどの程度のスタビリティーを作り出すのかが解りません。重心位置も解らない。経験から想像するしか無いのかな〜という気がします。しかし、ひとつ言える事は、幅は初期ヒールに強く、大きくヒールする時は、横に張り出してくるキールのバラスト重量の方が影響力が大きいのではなかろうか?

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