第九十七話 リラックス

慣れない事をしますと、体のどこかに無意識に力が入ります。舵を持つと、肩に力が入ったり、足だったり、腕だったりします。それで、2、3時間乗りますと、肩が痛くなったり、疲れたりもします。まず、最初のセーリングのコツはどれだけリラックスできるかかもしれません。どこにも余計な力が入らないで、体がどれだけリラックスできるか?

しかし、そうは思っても、なかなか力が抜けない。だから、最初はこのリラックスをする事に注意をする事が必要かもしれません。体全体に余計な力がどこにも無い状態を心がける事が必要かもしれません。それには、慣れるしかありません。力が必要無いという事を体が覚えるしか無いのかもしれませんが、まずはリラックスする事に慣れて欲しいと思います。

そして、もちろん、力が必要な時もあります。舵を操作する時には、その動かす瞬間にだけ力をちょっと使う。でも、わずかです。シートを引く時はもっと力が必要ですが、でも、その引く瞬間まではリラックスしている事が重要ではないかと思います。

舵を操作する時の力はわずかです。もし、大きな力を必要とするなら、それはセールの調整がうまくいっていない。もちろん、ヨット自体がバランスの良いヨットである必要が前提ですが、そういうバランスの良いヨットで、セール設定がちゃんとしていれば、力はちょっとだけで良い。

体はリラックス、でも、気持ちは緊張感を持ち、あらゆる部分を観察する。見張りですね。何が起こっているかを敏感に察知する必要があります。もちろん、目だけでは無く、リラックスしながらも、体に伝わる変化を感じ取る鋭敏さも必要で、それは体がリラックスしているから感知できるし、そして、必要なのは集中力だと思います。つまり、体には余計な力を入れずにリラックスさせて、気持ちは集中させる。

体がリラックスしていて、気持ちが集中できれば、変化を見る事ができるし、感知する事もできる。その変化に対して、どう対応していくか、それが学ぶべき事であり、頭脳が働く場面でもあります。
だから、セーリングには、リラックスした体と、集中した気持ちと、理論を司る頭脳が必要になります。人間が持つあらゆる機能が刺激されるという事になります。

最初はジブシート1本とメインシート1本の計2本だけを使って、まずは、体がリラックスできるように、そして、集中力を発揮できるように、だんだんそれができるようになったら、理論を学んで、その理論をシステマチックに練習していきます。すると、早い段階で、うまくなっていけるのではないかと思います。その日の風に任せて、毎回、適当に流していくと、慣れはしますが、上手くなるかどうか?ある程度までは行くでしょうが、それ以上は難しくなるのではなかろうかと思います。

上手くなるには理屈は欠かせない。それを学んで、そして自分でも考えて、納得して、また、体が慣れて、それで身に付くのではないかと思います。重要な事は自分で考える処にある。何故そうなのか? 納得しないと、なかなか覚えられません。頭が覚えて、そのうえ、体もそれに慣れる事は重要かと思います。すると、いとも簡単に、無駄なく、しかも、楽に操船ができるようになれると思います。

それができるようになると、きっと、リラックスした状態で、体がスムースに動き、より気持ちが快感を得る準備ができた状態になっていくのではないでしょうか。そうなると、セーリングは本当に自分のものにする事ができるかと思います。自由自在感です。

ただ、この自由自在感は、初期のレベルでの操作でも、ジブシートとメインシートしか扱わないでも、慣れて、リラックスできれば、自由自在感を得られると思いますし、徐々に上手くなっていく段階のどの段階においても自由自在感を得られる。ただ、レベルは違うわけです。各段階で、自由を味わいながら、徐々にレベルアップして、より高いレベルの自由自在感を満喫する。長い時間が必要ですが、このレべルアップと各自由自在感こそが、セーリングに充実感をもたらし、セーリングを遊ぶという事なのではないかと思います。

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