第七十七話 サイズと質と

世間ではサイズばかりが注目されるかもしれません。買い替えの度にサイズアップをしてきました。それが日本でのヨットの常識でもありました。しかし、一部の方々にその変化が見られるようになってきています。

ひとつは自分に合ったサイズを選択するという事です。それはこれまでの経験上からの判断もあるでしょうし、環境の変化もあるでしょうし、心境の変化もあると思います。しかし、世間の常識にとらわれない独自の判断があります。最初の頃は何故?と誰もが不思議に思います。しかし、徐々に、そういう違和感は無くなってきました。何がなんでも、でっかいのが良いという常識は本当は何の根拠も無いいい加減な話です。それがようやく自分サイズのヨットという事が選択されるようになってきた。徐々にではありますが。

サイズもそうなんですが、もうひとつは質です。実際にセーリングをする方は、そのセーリングが解ってきます。そして、経験があるからこそ、いろんな状況を体験されます。そういう方々は、知っているだけに、質の違いも明確に解ってくる。だから、質を問うようになる。

彼らのヨットに対する成熟度は高い。多分、ヨット界をリードして行く事になると思います。もちろん、そういう意識は無いと思いますが。でも、本来、何が良いヨットかというのは、当たり前ですが、自分に合うヨットが良いヨットです。ただ、これまでは、自分に合うヨットというものが解らなかったのかもしれません。それが、経験を重ねてきた事によって、解ってきた。だから、自分サイズや質を問う方向に向かうようになります。結局、どういう使い方をするのか?単に、レースしますか、クルージングですかという分け方では無く、もっと具体的に自分のスタイルが解ってきたという事かと思います。

成熟度が高くなりますと、必然的にヨットのバリエーションが増えていきます。それぞれに価値観は違うわけですから当然という事になります。ヨット先進国である成熟度の高い欧米では、実にいろんなヨットがあります。20フィート以下の小さなサイズもたくさんありますし、100フィート、200フィートのヨットまであり、質についても様々です。我々が知っているヨットは欧米で建造されるほんの一部にしか過ぎません。そして、やっと日本も、その成熟度が少しづつではありますが、高まりつつあると思います。

乗るも乗らないも、ヨットというものが解ってきた。そこに、ではどうしたいのかという主体性も生まれつつあります。それが成熟度だろうと思います。まだまだ、ほんの一部の方々ではありますが。

だから、そのうえで、でかいヨットを選択する。或は、サイズダウンする。セーリングの質を問う等、自主的で自由な選択という雰囲気が全体を覆うようになる。すると、ヨット初心者にも影響を与えます。いろんなヨットがある事を知れば、彼らも選択の幅が広くなる。恐らく、欧米にしても、同じ道を辿ってきたのだろうと思います。

他人とは違うヨットを持つのは、ひょっとして大変かもしれない。自分の価値観を疑うかもしれません。他人と同じヨットを持てば、少なくとも安心かもしれない。でも、そんな時は過ぎつつあります。
そういう自主性を持った方々が、ある程度増えていき、それがある臨界点に達しますと、一挙に広がるかもしれませんね。そうなると日本も本物になる。

外洋艇、沿岸用、レーサー、レーサークルーザー、ハイパフォーマンスクルーザー、デイセーラー、いろんな名前がありますが、その名前さえもとらわれないで、自分スタイルを良く吟味する時期に来たのではないかと思います。

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