第十三話 試行錯誤

ヨットの運動能力のレベルはいかほどか? という事も重要ですが、そのヨットに対して、乗り手はどれだけの運動能力を発揮するつもりなのか? という事もあります。ヨットの運動能力が低ければ、その分楽に乗る事はできても、面白さに満足できないかもしれません。でも、高い運動能力を持つヨットに対して、見合う運動能力を乗り手も発揮しないと、バランスが取れないという事もあります。

デイセーラーはあくまでシングルハンドを前提にしています。ですから、ヨットの高い能力に対してでも、楽に操作ができる事を前提にしています。しかし、デイセーラー群の中にあっても、運動能力の差があり、一般ヨットに比較して容易な操作とはいえ、やはりそのヨットの運動能力に応じた、操作する側の比例する運動能力を発揮しないといけません。

DINAMICA940というイタリアのデイセーラーは、非常に高い運動能力を持っています。ですから、そこまで行くと、これは一般的とは言えないかもしれません。特に望む方限定かもしれません。非常に軽い排水量と大きなスクウェアートップのセールです。サイズは31フィート、セールエリアは55.5u、排水量は2,200Kg、バラストは1,170Kgです。

セールエリアで言うなら、アレリオン33Sに近い大きさです。でも、排水量が非常に軽い。アレリオン33Sよりも1,400Kgも軽い。驚異的ですね。それで、SADR値は33にもなります。アレリオン33Sが24ですから、これはもう次元が違う事になります。

それでも、このヨットはシングルハンド仕様なのです。ですから、速い事は間違い無い。でも、問題は強風時です。その時には相当速いはずですから、それなりの乗り手側の運動能力が要求される。ですから、腕に自信のある方には面白いでしょうね。或は、強風時には早めのリーフで対応するか、早めに切り上げるか、クルーを擁するかですね。造船所はレースでは、オーナーを含めて三人と言ってます。

自分のヨットを試行錯誤のうえで乗りこなす。その為には、そのヨットの運動能力を見極めて、それに対しての自分の側の運動能力を考える。目一杯自分の運動能力を発揮するか、どの時点でリーフするか、どの時点で切り上げるか、どういう操作をして対応するかですね。これらは、決して、大変な事をしようという事では無く、自分が面白いセーリングをするその対応の仕方、自分が発揮したい運動能力とのバランスを考える事になります。

ヨットと自分の運動能力をバランスさせる事ができたら、最高に面白くて、最高のフィーリングで、これ以上無いセーリングを味わう事ができる。だから、自分が発揮しようと思う運動能力以上のヨットはアンバランスになりますので、性能が高いから良いというわけには行きません。もちろん、クルーを擁する事で、乗り手側の運動能力を上げる事はできますが、それではシングルハンドでは無くなります。

ただ、シングルではここまで、これ以上はクルーを擁しとか、リーフしとか、そういう方法を考える方法もあるとは思いますが。それにしても、試行錯誤が必要になります。試行錯誤を遊ぶとも言えます。その結果、究極の自分スタイルが出来上がる。

自分が発揮したい運動能力に合ったヨットの運動能力。ここがバランスした時、最高でありますね。思う存分楽しめる。そういう試行錯誤って、やっぱりでかすぎるのはどうでしょうかね?ここまで求めるのは、やっぱりシングルハンド前提ですと、30フィート前後までではないかと思います。それもデイセーラーはキャビンが狭くデザインされているからそうであって、最近のでっかいキャビンのヨットだったらこうは行かないかな。でも、そういうヨットはこういう事は望みませんが。

デイセーラーは一般的に、より高い帆走性能に対して、より少ない運動能力で堪能できる。そこがこのヨットの面白さです。でも、そのデイセーラーの運動能力が上がっていけば、操作側もそれなりの運動能力を発揮する必要がある。DINAMICAは特別だと思います。レーサーの性能をシングルでこなそうというヨットです。レースするなら三人で。シングルの時はもっと穏やかな風で、でも、それでもより高い帆走性能を味わえる事になります。一般的には、ハーバーやアレリオン、イーグルあたりが適していると思います。性能が高ければ高いほどにスピードは増し、スピードが増せば増す程に、乗り手側にも同様の運動能力が要求される。当然であります。

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