第十二話 セールと舵とオーナー

口のすぐ下にA4ぐらいの紙を横に置いて、先端は垂れていますが、そこに紙の上部側に、程良い角度で息を吹きかけると紙が上に持ち上がってきます。これが揚力ですね。吹きかける角度も下過ぎても、上過ぎてもいけません。ちょうど良い角度の時、持ち上がる。

だからセールの角度もそれと同じであります。セールの場合は、風がセールの裏表の両方に当たりますが、その差でもって揚力が生まれる。何故、裏表で差が生まれるのかは、どうもはっきりとは分かっていないようです。しかし、揚力が生まれる事は解っている。

風に対して、程良い角度にする為にセールの角度を調整します。とは言っても、セールは硬い一枚の板ではありませんので、上から下まで同じ角度とは行きません。それで、メインだったら、ブームを下げて、できるだけ同じにする。ジブも下に下げる為には、リードブロックを調整して、セールが上に上がらないようにする。

しかし、風速は下から上までは同じでは無く、上の方が少し速い。よって、セールをわずか上に上げて、バングを少し緩めて、上部側を開く。ジブはリードブロックを少し後ろに下げる。

メインセールはどの角度でも、こういう調整が可能ですが、ジブは、セールがリードブロックより外側に押し出されるようになると、こうはいきません。シートを出して、下側の角度を合わせると上部側は開きすぎ、上部側を合わせると下側は閉じすぎる。よって、できるだけ角度が合う面積を広げるように調整する。

飛行機の翼にはフラップがあって、上昇時には、フラップを下げる。つまり、翼に角度がつきます。それもセールで言う処のリーチの部分。もし、リーチ部分がフラップのようにカーブすると、ヒールの力が強くなるかな。だから目安はトップバテンがブームと並行を基準にするのが良いと言われます。トップバテンのリーチ部分がブームと並行なら、下部に比べてやや開いた感じです。

さらに、揚力の大きさを調整するのが、セールのカーブの大きさという事になります。風が弱い時はカーブを大きく、強い時にはカーブは小さく。燃料を注ぐ量を調整するようなものでしょうか。角度にしても、カーブにしても、どこのポイントが最も適切であるかを探ります。

その基準を造るのが舵です。舵でどの角度に走らせるを決めて、その角度にセールを合わせる。そして揚力を生み出します。舵は全ての基準であります。そして、その舵は我々の意図によって決定されます。つまり、我々の自由な意思は舵に対して行われます。という事は、舵は全体の司令官のようなもので、舵がふらふらしていたら、セールはどこで合わせて良いか分からなくなります。
それだけに、舵には注意を払う必要があるかと思います。

つまり、舵は主であり、セールは従であります。その舵を握るオーナーは司令官であります。全ては、司令官の命令に従わねばなりません。だからオーナーは責任があるし、命令権を持っていますし、だから偉いのです。

ただ、角度稼ぎの時は、風向の変化に対して舵で追随する事になります。これは風が主導権を握ったというより、ただのルールであります。環境変化であります。その環境変化に、自由意思でもって舵を切る。遊んでいるのは風では無くて、オーナーであります。主導権はやっぱりオーナーにある。という事で、オーナーはやっぱり偉いのです。

たまにセールに舵を合わせたりしますが、本当はセールが合わせねばりません。舵はオーナーの意思なのですから。それだけに、オーナーは豊富な知識と経験が求められる。一番偉いんですから、仕方無いですね。シングルで乗る時だって同じです。だから最も意識すべきは舵なのかもしれません。

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