第九十一話 キャビンの呪縛

我々はレースかクルージングかという選択に迫られ、クルージングというジャンルを選択した結果、キャビンの呪縛に囚われ続けています。ゆったりとしたソファーがあって、トイレがあって、冷蔵庫、温水、電子レンジ、エアコンまであります。それが良いんだという無意識と言ってもいいぐらいのレベルで、そう信じています。それが有効に使われる限りにおいて、それは正解だとは思いますが、現実的には、あまり有効利用されていない事が多いように思われます。しかし、そのキャビンの呪縛から開放される事はなかなか難しいようです。

この呪縛から解き放たれるには、もっと時間の経過が必要なのかもしれません。しかし、少しづつではありますが、キャビンを重視しない方々が増えてきています。

考えてみますと、キャビンは旅先での寛ぎスペースです。でも、実際はそうしょっちゅう旅に出るわけではありません。それは欧米人とて同じだろうと思います。彼らだって仕事しているわけですから、年間に何回かは日本人以上のロングというのがあるでしょうが、日常はデイセーリングであります。そして忘れてはならないのが、欧米人はマリーナで過ごす時間が多い。だから、キャビンが必要とされます。

この事はヨットにキャビンがあるというだけでは成立しないと思います。マリーナが、そこに居て楽しい時間を過ごせるという環境があるからだろうと思います。もう、20年以上前から、マリーナには、電話線はもちろん、ケーブルテレビも配線がしてあったり、もちろん、郵便だって配達してくれる。そんな歴史をずっと続けてきました。日本の環境とは全然違います。

ですから、敢えて、日本で、キャビンの有効利用を唱えるつもりはありません。もちろん、キャビンはあって良い。たまにしか使わないにしても、あっても良い。ただ、それほど重要視しなくても良いのではないか、それより、気軽にデイセーリングを楽しめる方が良いのではないかと思います。
だからこそ、デイセーラーかハイパフォーマンスクルーザーをお薦めするわけです。

セーリングを重視しますと、セーリングに詳しくなります。それに動かすのも上手になるし、全体のヨット運営においても、自由が効くようになると思います。セーリングを重視して、それをできるだけ少ない人数で楽に動かせるようにする。ヨット遊びのポイントはこれではないかと思います。

先日ですが、ある45フィートのオーナーと少しお話ができました。新艇で、それこそオールオートマチックのようなヨットです。45フィートをいとも簡単に出す事ができます。その方曰く、簡単であるし、しかも、セーリング中に舵を全く握っていなくても良いんですと言われました。そうですか、すごいですね、と一応お応え致しました。そういうヨットを良しとされる考え方ももちろんあります。オーナーがご満足であればそれで良いと思います。

ただ、それで面白いのか? これからの長いヨットライフにおいて、気軽さはもちろん賛成です。
45フィートあろうが、簡単に出せる事は良い事です。でも、舵は自分で握った方が面白いのではないかと思います。これは私がそう思うだけで、違う考え方ももちろんあります。だから本当はどっちが良いという事はありません。でも、自分の面白さはどこにあるのか、という事は感じておく事は必要だろうと思います。

何もしないで便利が良いのか、面白いのいか、或は、いろんな事をするから面白いのか、もし、後者がそうだとするなら、何をすれば良いのか?これは前者も同じで、操船しないで良いなら、他の何かをする事になるんですね。つまり、何かをしたい味わいたいと思って行動するわけですから、その何とは何か?何をしたら面白いのか?

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