第八十五話 バラスト比?

全体重量のうち、バラスト重量が占める割合ですが、この役目は何でしょう?バラスト比が高い方が復元性が高い。これは想像できます。復元性とは何でしょう? それは起き上がろうとする力ですが、でも、ここはもう少し考える余地がありそうです。

バラスト比は、その船体が傾いたりした時に起き上がろうとする力、復元力というより、起き上がりやすさ、復元性と言った方が良いかもしれません。例えば、バラスト比40%のふたつのヨットがあるとします。同じ船型とします。でも、排水量は異なりますから、バラスト重量も異なります。

A) 排水量 4,000kg バラスト重量 1,600kg バラスト比 40%
B) 排水量 3,000kg バラスト重量 1,200kg バラスト比 40%
セールエリアは二艇とも同じとします。例えば、50uとします。船型も同じだとします。

A)のSADRは20になり、B)のSADRは24となります。これを見ますと、B)の方が速いと言えます。
しかし、上りの強風になっていきますとどうでしょうか?船体は大きくヒールする事になります。それを支えるのは、バラスト比では無く、バラストの絶対重量です。では、バラスト比とは何か?これがちょっと難しいのですが、船体が起き上がろうとする力にはなるんでしょうが、これが全体の割合ですから、起き上がろうとする力というよりも、起き上がりやすさと言った方が良いかもしれません。
起き上がる力というのは、バラストの絶対重量にかかってくると思います。ですから復元力というより、復元性と言った方が良いと思います。

そういう意味では、強風において、よりフルセールで走れるのはA)という事になります。そこで考えました。バラスト1kg当たりに支えるセールエリアはいかほどか? こんな式でいいかどうかはわかりませんが、とりあえずという事で。

A) 50u ÷ 1,600 = 0.031
B) 50u ÷ 1,200 = 0.041

これを見ますと、A)の方が、バラスト1kg当たりに支えるセールエリアが小さいですから、その分、よりフルセールで走れる事になります。そこで、B)を同じバラスト重量にして、船体を軽く造って、
排水量 3,000kg バラスト 1,600kg バラスト比 53%にしますと、A)と同じだけ強風をフルセールで走れる事になります。

つまり、何が言いたいかと申しますと、バラストの絶対重量対セールエリアを考える必要があるという事です。SADRを計算して、そのヨットの総合的スピードのポテンシャルを見て、さらに、セールエリア/バラスト重量を見て、強風におけるポテンシャルを見る。

アレリオン33は二種類あります。
アレリオン33 排水量:3,915kg バラスト重量:1,485kg セールエリア:56.5u
アレリオン33S 排水量:3,600kg バラスト重量:1,485kg セールエリア:56.5u
排水量だけが異なります。

アレリオン33のSADRは22.8です。一方、アレリオン33SのSADRは24.4です。排水量が軽くなった分SADRが高くなります。それで評価をするならば、アレリオン33Sの方が速いと言えます。
では、強風に対してはどうかですが、これは56.5u ÷ 1,485kg = 0.038 で同じ数値ですから、強風に対しての評価は同じと言えます。

もし、別なアレリオンを建造して、アレリオン33S+として、排水量をアレリオン33と同じにして、
船体をアレリオン33Sと同じにして、その軽くなった分をバラストに加えて、バラスト重量を1,800kgにしたとするなら、 SADRはアレリオン33と同じ22.8で、強風に対しては、56.5u ÷ 
1800 = 0.031 となり、より強風に強くなると考えられます。

こういう評価の仕方を考えてみてはいかがでしょうか?

別の例を挙げますと、アルコナ340(ハイパフォーマンスクルーザー)
排水量:5,200kg バラスト重量:1,950kg セールエリア:67.2u
SADRは22.7で、セールエリア÷バラスト重量は0.034です。 セーリングのポテンシャルとしては、アレリオン33と同等で、強風に対しては若干ですが、アルコナの方が強い。

もうひとつ例を上げます。 典型的な沿岸用クルージング艇です。モデル名は控えます。
排水量:5,200kg バラスト重量:1,300kg セールエリア:51u
SADRは17.2 セール面積÷バラスト重量は0.039となります。
排水量の割にバラスト重量が少ないので、セーリングパフォーマンスとしては、そんなに速くは無いだろうし、強風にも数値がでかいので、そう強くは無い。でも、沿岸用のクルージング艇ですから、それで良いんだろうと思います。

最近ではバラスト重量の記載が無いケースも多いのですが、もし解れば、こういう計算をしてみますと、いろんな想像ができるのではないかと思います。もちろん、これらの数値が全てでは無い事は言うまでもありません。船型やキール形状にも影響されますが、まあ、大雑把当たると思いますね〜。  続く・・・・。

次へ       目次へ