第三十四話 排水量

重いのか、軽いのか? 大きなヨットは小さなヨットより重いのは当然であります。しかし、ここで言う重いのかという問題は、水線長に対して重いのか、軽いのかという問題です。

同じ水線長で、重いと軽いを比べますと、水線から下の沈んだ船底の容積が、重い方がこの容積が大きくなり、より多く沈んでいる事になり、軽い方はその逆であります。

水は走る抵抗になります。つまり、より沈んだ、重いヨットは、走る為には、より大きなパワーを必要とします。沈んだ水線から以下の水の量が多いわけですから。つまりは抵抗がより大きいという事になります。

排水量は、その名の通り、水を排水するわけですから、5tの重量を持つヨットは、水に浮かべて、5tの水を押しのけて、バランスが取れて、浮かびます。ですから、5tのヨットは、5tの水を抵抗として持っています。

その5tのヨットが、幅が狭くて深く入るのと、幅が広くて浅く沈むのと、水の量は同じで5tですが、船底形状によって、水の押しのけ方が違います。そこに風のパワーが入ってきます。

幅が広くて浅く沈んでいるヨットは、必然的に船底がフラットになります。幅広く水の浮力を受けていますから、沈んだ深さが浅くなる。すると、そこに風のパワーが入ります。押しのける水の量は同じでも、幅が広い分プレーニングはしやすくなります。浅いからです。

狭い幅のヨットの場合、同じ5tですから、より深く入ります。抵抗は同じ5tです。船底も幅広いヨットに比べると、それ程フラットにはなりません。このヨットがプレーニングするには、もっとパワーが必要になると思います。では、幅が広い方が良いのかとなりますと、事はそう単純ではありません。

セーリングはヒールして上る時もあれば、後ろから風を受けて、ヒールせずに走る事もあります。しかも、風が弱いとか、強いとか、いろんな条件がつきます。そして、それを何人で操作するのかという前提もあります。だから、ここを素人が突き詰めて解る程、単純な事では無い。だからこそ、プロのデザイナーがしのぎを削るという事になっているわけです。

では、素人が考える事が無駄なのかという事では決して無く、デザインをする事は至難の技ですが、出来上がった物を見る事はできるのではないかと思います。むしろ、その方が我々にとっては重要です。どこでバランスを取るかは難しいですが、どこにバランスを取ってあるのかを見る方が遥かに易しいかと思います。

だから、知った方がやっぱり良いという事になります。いろんな想像を巡らした方が面白いと思います。

ちなみに、水は抵抗ですが、同時に支えでもあります。この視点を持つならば、より深く入っていた方が、操作はしやすくなります。抵抗が大きい分、緩やかになるんですね。従って、操作性、乗り心地、機敏性とは言っても、その度合いがあります。

ヨットはありとあらゆる視点があって、しかも、どれかひとつの視点のみを考えるのでは無く、バランスという事になりますから、非常に難しい。それで、自分の視点をできるだけ明確にした方が、選択はしやすくなるという事になると思います。

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