第五十一話 クラフトマンシップ

この言葉はよく聞きます。職人さんの技術ですね。どんなに良いデザインで、どんなに良い構造で、どんなに良い素材を使おうが、これが無ければ、品質は劣ります。逆に、素材が、一般的な物であっても、この技術によってはしっかりしたヨットができます。素材はあくまで、素材の特性であります。

職人の技術は解りませんね。信じるしかありません。現物を見ますと多少は解るでしょうが、それでも、隠れた部分が重要ですから、なかなか難しい。それは近代設備をしているから大丈夫とも言えません。

それで何で判断するか?私の場合は、造船所の姿勢です。担当者の返事の仕方とか、速さとか、初めて取引をする場合、特に、たくさんの質問を投げかけます。細かい事も聞きます。そういう事に対して、どういう返事をしてくるかを重視しています。そして、やっぱりと言いますか、良いヨットを造る造船所は、反応も良いです。的確な答えも返ってきます。そうでない造船所は、やっぱりあまり宜しくない。そう思います。

多くの造船所が、コンピューターを使い、最新の技術を使い、クラフトマンシップを謳います。しかし、やっぱり、そこで働くのは人間ですから、その人達の影響を受けないはずがありません。ですから、反応が悪い、返事の仕方がいい加減な処があると、ペケを付けるようにしています。

量産艇においては、これはどうだかは解りません。全てがシステム化されているでしょうから、それはきちんとしているかとは思います。しかし、少量生産の場合は、絶対的に人間の影響を受けると思います。まあ、量産だって、働いているのは人間なので、同じかな、とは思いますが。

という事は、私自身も注意しなければなりませんね。精進、精進。

例え、返事が速くても、何でもかんでもこちらの言う通りにするのも要注意です。時には、こちらも無理を言います。その無理に対して、時には、そのヨットのブランドを傷つけるような事もあります。それでも、売らんが為にすぐにOKを出すような造船所もあります。そんな造船所は信用なりません。何故駄目なのか、きちんと返事してくれる造船所はOKでしょう。

小規模造船所の良い所は、プロダクション艇には違いないのですが、大抵は、オプションリストに無い事も聞いてくれるという事です。それには、事によっては高い知識と技術が要求されます。きまりきった事ばかりでは無いわけですから。それを丁寧に対応してくれる造船所は、良い造船所だと判断します。

小規模造船所は、良いヨットを出したいと考えます。儲かるだけなら、やっぱり数多く売るのが一番ですから、良いヨットを少量でも長く続けたい。それが彼らの願いであり、誇りでもあり、それをこちらも感知しなければならないと思います。

海外の造船所と付き合って、20年以上になりますが、ひどいのもありました。返事が全く来ない、一ヶ月ぐらいして、遅くなりましたとかメールが来る。こんなのは論外であります。或は、約束を守らない、都合の良い質問だけしか返事しない、そんなのもあります。こんなのは、付き合えません。精進、精進、人の事ばかり言ってられません。

でも、見慣れていきますと、そのヨットの雰囲気だけでも、結構解ってくるようになりますね。良いデザインと、構造、工法、それに高いクラフトマンシップがあれば、安心です。

次へ       目次へ