第三十二話 SADR

レースでは無い限り、スピードだけが全てというわけではありません。しかし、何だかんだ言っても、スピードはセーリングするうえでは重要な要素のひとつです。そのスピードを決定する要因はいろいろあるでしょうが、最も影響するのは、排水量に対するセールエリアだと思います。それで、その比率を出す計算式があり、これで各艇を比較すると面白いかと思います。

セール面積 ÷ (排水量 ÷ 64)2/3乗 = SADR(数値が高い方が速い)

アレリオン33スポーツの例
セールエリア= 609 sqft(フィート計算による面積)
排水量=8,000 ポンド
これを式に当てはめますと 609 ÷ (8,000 ÷ 64) 2/3乗 = 24.36

これがこのアレリオンのSADRです。この数値が高い方が、重量に対してより大きなセールエリアを持つという事になります。

アルコナ340 ハイパフォーマンスクルーザー
セールエリア= 67.2u = 723 sqft
排水量= 5,200KG = 11,555 ポンド
SADR= 22.64

こういう数値を得ました。この二つを比較しますと、アレリオン33スポーツの方が数値が高いので
速いという事になります。セール面積自体はアルコナの方が大きいのですが、排水量はアレリオンの方がかなり軽いので、こういう結果が出ます。重量は構造、工法やデザインとか内装の違いも出てきます。

32フィート 沿岸クージング
セールエリア = 538sqft
排水量= 11,555ポンド
SADR = 16.8

34フィート 本格外洋艇
セールアエリア = 534sqft
排水量 = 6,075KG = 13,500 ポンド
SADR= 15.08 

35フィート クルーザー/レーサー
セールエリア=796.5sqft
排水量=9,780ポンド 
SADR=27.8

デイセーラー/レーサー 33フィート
セールエリア = 581 sqft
排水量 = 4,444 ポンド
SADR = 34.3 驚異的な数値です。船体が非常に軽い。

40フィート レーシングヨット
セールエリア = 1,109 sqft
排水量 = 10,902 ポンド
SADR = 36.4 これまた驚異的な数値です。

セールエリアが大きい程速いという事になりますが、大きければ大きい程、操作が大変になりますので、それで、船体側をできるだけ軽くする。軽いだけではいけませんので、それでいかに強度を高める事ができるか?この矛盾する課題を取り組む事になります。

こう見てきますと、レーサーですと標榜するヨットは、SADR数値が30オーバーぐらいあります。もちろん、その中でも幅があります。数値が高い方が、よりレーサーとして徹していく事になります。
この中で驚きなのは、デイセーラー/レーサーの数値です。この数値は完全レーサーです。でも、何が他のレーサーと違うかですが、レースの際、2,3人で操船できますという事でしょう。これに対して、他のレーサーはもっとクルーが必要になると思います。

但し、レーサーというのは、レーティングという縛りがありますから、デイセーラー/レーサーがどのようなレーティングを取得するのかは解りません。多分、デザインにおいてレーティングを無視しているかもしれません。それだけに速い。縛りがありませんから。でも、ワンデザインのレースなら関係無いんですね。

しかし、速さの要素はこのSADRのみでは決まりません。船体に対して、より大きなセールエリアを持つとしても、軽風あたりでは速いでしょうが、風が強くなるにつれて、復元性の問題も出てきます。セールが受ける風のパワーを受け止める事ができなければ、風を逃がす必要がでてきます。それで、船体自体の重心の高さや設置されたバラスト重量の比率が物を言う事になります。或は、レースの際は、クルーの体重で起こすかです。

それと、船体の硬さも重要ですし、水線長も、船型ももちろん影響します。クルージングするにしろ、レースをするにしろ、これらのデータを知る事によって、だいたいの性格が見えてくるのではないかと思います。もちろん、全てのデータを入手できないかもしれませんが、だいたいの性格が解れば、他の事もそれに歩調を合わせるものだと思います。
もちろん、各ジャンルの中でも、性能に幅がある事は言うまでもありません。

さて、最後に、ノルディックフォーク25というロングキールのヨットがあります。このヨットのSADRは15です。セールのサイズの割に船体が重いという事になります。しかし、このヨット、セーリングが面白いんです。決して速くはありません。しかし、セーリングは面白い。低い重心の船体に53%に及ぶばらすと比、波あたりは柔らかく、フリーボードは低いので海面が近い。何しろ、コクピットの床の高さは、海面より低いんです。決して速さだけが面白さでは無いと感じます。

今日の一曲 モニカ ボーフォス Dindi

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