第二十七話 仕掛け人

どこの業界にも仕掛け人が居ます。これからどんな物を流行らせようかと考え、それを市場に出して、コマーシャルを打って、需要を作り出す。昔、朝シャンという言葉が流行った事があります。ご記憶の方も多いと思いますが、朝、起きてシャンプーするわけです。当時は、随分流行ったと思います。

或は、これは聞いた話ですが、日本中の池にブラックバスを放流して、ルアーフィッシングを流行らせた。釣道具メーカーの仕掛けとか聞いた事があります。どうりで、こんな田舎に何でブラックバスが居るんだろうと思った事がありますが、成程、そういう仕掛けか。そう言えば、地方にもバスプロの講習会があって、子供を連れて行った事があります。

需要は、人々の中から自然に生まれるとは限らず、メーカーが仕掛け人となって需要を作り出す事もある。さしずめ、ヨット界でも同じかもしれません。もちろん、闇雲にやってうまく行くわけは無く、ある程度の見込みが必要でしょうが、キャビン拡大競争もそのうちのひとつかもしれません。或は、クルージング艇が発展していく方向は、それしか考えつかなかったのかもしれないし、手っ取り早い方法だったのかもしれない。

キャビンが大きくなってメリットとなる。しかし、反面、重心は上がるし、マリーナからの出し入れも、より難しくなります。何しろ、風圧面積が大きくなりますから。そうなると、セーリングにちょっと気軽に出るというわけにはいかない。おまけにクルー不足ときている。だから、ヨットを別荘として見る傾向も強くなったのかもしれません。

そして、次に来るのが、ジョイスティックによる横歩きするヨット。これで出し入れは簡単ですと言います。なる程、こんなのは急に出てきたわけでは無く、昔から開発はしていただろうから、きっと、順番に出してきたのかもしれない。多分、今後は、でかいヨットだけでは無く、30フィートぐらいにでも使えるようにはなるでしょう。メインファーラーがそうであるように、電動ウィンチがそうであるように。そこまで来ると、もう、誰もが簡単に、サイズに関係なく動かせるようになるかもしれませんね。

これはこれで良い事かもしれません。でも、反面、ますますセーリング離れが進むと思われます。察するに、今後、クルージング艇は完全レジャー化し、新しく始める方々を魅了するでしょう。過去に全く経験の無い方々でも、簡単にヨット遊びができるようになる。セーリングがどうこうなんてのは必要無いんですね。

その代わり、セーリングをする方々は別のジャンルとして、似て非なるものとして、技術を要するし、知識を要する。そこが、そういうオーナー達のプライドをくすぐるかもしれません。こういうセーリングヨットはレジャーには留まらず、趣味の世界になります。ボート免許を取得したからと言って、誰もが簡単には乗れませんよという事を強調するかもしれません。これはこれで、セーリングヨットを押し上げる要素になるかもしれません。ますます、専門化するかもしれない。

でも、セーリングが難しいという印象を強調したくはありません。動かすだけなら難しいものでは無い。でも、そこまでなら、クルージング艇で十分という事になって、セーリングヨットを望まれる方は、それでは満足しない方という事になります。

それで、もう一つの考え方は、ヨットをレジャーとするか、趣味とするかという事も考えられますね。
既にそれに近いかもしれません。セーリングヨットをレジャー的に使うのは、ちょっとどうか? クルージングヨットを趣味的に使うのはどうか? そういう事が強調されて、ますます二分化するようになるのではないかな〜? まあ、そこまで仕掛け人が考えているかどうかは解りませんが?

私はセーリングの分野におりますので、そうなると、デイセーラー、ハイパフォーマンスクルーザーやはり、これまでの路線を強調していきたいと思います。ヨットである限り、セーリングが無くなる事は無いでしょうから。

セーリングが趣味的に強調されるとしても、難しい操作であってはならない。難しくても良いのは、プロが乗るような本格レーサーぐらいでしょう。あくまでアマチュアとして、趣味の世界を追求するものです。それで、これからのセーリングは?

動かすだけなら簡単ですが、今後はレジャーでは無く、趣味性が強調されますから、徐々にうまくなっていく世界が必要です。簡単操作でありながら、上手くなって、それで、もっと面白くなる世界です。すると、多分、使うセールもクルージング艇のそれとは違うようになる。同じダクロンでもトライラジアル、UKセールではカーボンテープドライブなんかを出している。ジブファーラーは必須でしょうが、メインファーラーは無い。ちょっと軽目のセール、でも、延びにくい、紫外線や折りたたみにも強いセール。レーサーとは別です。

この世界では、必ずしもステアリングホィールばかりが強調されるとは限らない。ティラーの良さも見直されるかもしれません。セーリングが強調されるので、ハルの硬さや、船型、重心、デッキ上のアレンジメント等も使い易い方が良いが、でも、クルージング艇とは違う。また、サイズにおいても、でかいのが良いとは限らない。これはますますクルージング艇にとっても、セーリングヨットにとっても、良い事ではないかと思います。ますますその各分野において発展するわけです。そうなると、デイセーラーの活躍できる範囲も広くなる。クルーザー/レーサーやパフォーマンスクルーザーの地位も上がる。

という事で、将来はジャンル分けがもっと明確になって、レジャーとしてのクルージング艇、そして趣味的セーリングヨットやレーサーという事になるかな。今も既にそうなんですが、今後、ますます分離し、専門化が進むと思います。これは各分野にとって良い事だと思いますね。それは仕掛け人の思惑かどうかは解りませんが、中途半端では無くて、その方が良いかもしれない。選ぶ方も、明確になります。

レジャーとしてクルージングしますか、それともセーリングを堪能したいですか? 或はレース?
ロングや外洋クルージングは、また別です。クルージングもここまで来ると単なるレジャーとはいきません。しかし、最も多いのがレジャー的使い方になる。これで、クルージング艇はますます門戸を広げます。

どんどん新しい方々に参入して頂きたいものです。もはやヨットは難しいものでは無いという印象が広がってほしいです。そして、もっと違う何かを求めるならば、どうぞ、セーリングの世界へどうぞという事になるでしょうか。既にクルージング艇で一歩は入っていますから、敷居はぐっと低くなる。ヨット界の未来は明るいかもしれません?

今日の一曲 サラ ヴォーン I didn't know what time it was/ Autumn Leaves 続けて2曲です。

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