第二十三話 動かすだけで良いのか?

初心者の頃、ウキウキとして、ヨットを習い、一応乗れるようになります。この時期はとっても面白いかと思います。また、ここまではそうは難しい事ではありませんので、割と皆さん早く動かせるようになります。しかし、それで良いのか? 動けば良いのか? そういう疑問が湧いてきます。

ヨットを走らせるというのは、動かす事が出来れば、それで良いに終わらない。むしろ、これからが本番ではないでしょうか?もちろん、クルージングとしてどこかに行くというなら、また話は別ですが、セーリングを遊ぶという意味では、ここからが本番と思って、この奥を見つけに行く。そういうものではないかと思います。

多くの場合、ある程度動かせるようになったら、後は適当に乗るだけ。たまたま良い風が吹いたら、たまたま快走を味わうだけ。たまたま微風に出会ったら、その時は退屈になって、エンジンを駆ける。そういう状態が多いのではないでしょうか?趣味として、ヨットに関わり、セーリングを遊ぶというのが、こんなたまたまだけに頼っていて、それが本当に10年も20年も続いて、面白いでしょうか?続くかどうかも解りません。

ヨットがどこかの目的地に行く為なら、解らないわけではありませんが、でも、行く目的なら、もっと効率の良い方法があります。でも、敢えて、ヨットというわけですから、それなら、ヨットの、ヨットならではしか味わえないセーリングをもっと突っ込んでみた方が良いんじゃないかと思います。

レースに興味の無い方は、セーリングに対してもあまり積極的では無いようです。たまたまのセーリングで、たまたまの快走で、たまたまの遊び?失礼は承知で書いていますが、でも、このたまたまは実に多いし、風任せは、確かにヨットらしいかもしれませんが、例え、レースに興味が無いとしても、セーリング自体に、もっと関心を寄せても損はしない。むしろ、面白さが発掘できるのではないかと思います。

ですから、ヨットを知るとか、繊細とか、集中力、感知能力とか、そんな言葉をたくさん使ってきました。ここで言いたい事は、クルージングももちろん良いが、セーリングをもっと追求してみては、という事です。たまたまの偶然の快走だけでは無く、いろんな処に面白さを見つけたい。快走はもちろん大歓迎ですが、そうはとんやが下ろさない。いろいろあるのがセーリングで、いろいろ無いと面白くない。

ですから、動けば良いのか? 行きたい方向に走って、タックして、ジャイブして、帰ってくる。それで良いのか?それで10年、面白く遊べるだろうか? と思ってしまいます。何もレースをお薦めしているのでは無く、ヨットはセーリングをいかに面白くする事ができるかという事を、10年、20年と創っていくもの、面白さをあっちこっちに発見するもの、創造するものではないかと思います。

そう思いますと、いろんな処にいろんなものが発見できるのではないかと思います。そういうセーリングをするというのは如何でしょうか?この先を言葉で表す事はできません。実際に乗って、神経を集中させて、何を感じるか? 操作してどれぐらい変化を感じ取れるか?特別な何かにだけ集中するのは簡単な事で、誰でもできますが、例えば、ただ真っ直ぐ走っているだけで、そこにどれだけ集中できるか? 集中度が高くなりますと、微妙な変化が解るようになる。解れば、それに対応します。それはわずかな舵の操作かもしれません。でも、そこを感じる事に対して、自分の反応があります。こんな何でも無い事にいかに集中できるか?

それができるようになったら、普通の事に集中できるようになったら、それは感知能力の向上に繋がると思います。みんながおしゃべりしながら、何気なく持つ舵にも、それとは違うセーリングの妙が感じられるようになるのではないでしょうか?それはすごい能力なのではないでしょうか?

セーリングには大きく操作する事から、見た目では解らないぐらい微妙な操作をする事もあります。大きくすれば変化も大きく、これは誰もが感じる変化ですが、微妙な操作は解る人にしか解らない。でも、風や波は、勝手に変わるわけですから、それらが解るか解らないかは、大きな違いではないかと思います。それなら、解るようになりたい。解る人は、何倍もセーリングを楽しんでいる事になります。セーリングを楽しみたい、これからの長い期間を考えますと、セーリングは奥深い遊びなので、それに値するものかと思います。

いつもいつも神経を張り詰めるのはしんどいですが、基本的にはそういうセーリングを持つという事を主体にしておくのはいかがでしょうか?ピュアセーリングを楽しむ。そうすれば、技術はついてくる。勉強しても面白いし、良く理解できるし、実践しても面白い。

実は、微風で神経を集中するのは、かなり難しい事です。でも、敢えて、それに挑戦してみる。強風だけが挑戦では無い。誰もができない事をするのは大きな挑戦です。ですから難しい。でも、少しづつでもそれができるというのは、かなり集中力を鍛える事になると思います。すると、徐々に、ヨット観が変わる。普通の事に集中できるのは、かなりの能力ではないかと思います。それなら、ちょっと風が強くなったら、もう集中なんて普通の事です。簡単です。そうなると、微妙さがもっと解る。もし、良い風がふいて快走してきたら、もうとんでも無い事になります。

一般的な遊びは、遊んでもらう事が多い。誰かが遊びを創造して、それに対してお金を払って遊ぶ。その最高峰はディズニーランドなのかもしれません。でも、セーリングは自分で創造しなければ、風は勝手気ままですから、接待はしてくれません。ならば、こっちから近づくしかない。それはピュアセーリング、集中力、そして技術、知識を身に付けステップアップしていく自分の能力の変化を遊ぶ。

そんなこんなを、もし10年、否、 ワンシーズンでも続けられたら? かなり違うせーリングになっていくのではないかと思います。もちろん、のんびりも良いし、デートセーリングもお薦めしています。でも、基本はこれ、そのうえで、いろんな遊びを混ぜ合わせていくと、きっと面白いヨットライフが出来上がるのではないかと思います。何事も、あるレベル以上を求めたら、それなりの努力は必要になる。それが遊びでも仕事でも。遊びの達人は、普通の人より多く、いろんな処で面白さを感じれる人ではないか? 彼だけに特別の何か面白い事があるわけでは無く、他人が感じない処を感じ取れる人なのかな〜と思います。

せっかくヨットやるんですから、それなら、ちょっとでも深いセーリングの世界を知ってやろうじゃないですか。その方が、何年か経った時、きっと面白かったなと思われると思います。動かせるだけで良いのか?というのは、セーリングの勧めであります。後で後悔しない為にも、ここはちょっと奮起して。

今日の一曲 バド パウエル Cleopatra's Dream

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