第九十八話 セールエリアの比較

I,J,P,Eのデータによってセールエリアを算出し、それで比較しないときちんとした比較はできないと、以前書きました。それはその通りだと思います。あるヨットは150%ジェノア、別なヨットは100%ジブ、これでは性能をきちんと比較できない。しかしながら、このI,J,P,Eのデータを出していないヨットも多いし、データとして造船所が出しているセールエリアは、その標準仕様のセールエリアを出している場合も多いので、これでは正しい比較ができません。

そう思ってきましたが、考え直して、そのヨットでセーリングする時のセール、主には標準セールですが、それでそのまま走るのなら、それで比較しても良いかな?とも思ってきました。 Aヨットには130%ジェノアが標準で、Bヨットには105%ジブが標準設定されているとしたら、そして、どちらを購入するにしても、そのまま、その標準設定のまま乗るとしたら、それで比較しても良いかもしれない。 Bヨットにとっては不利と考えられるが、そのまま乗るのだから、それでも良いかな、と思いなおしています。

セールを標準仕様としていないヨットの場合は、たいていはI,J,P,Eのデータが出されています。そのヨットにどんな素材の、どんなサイズのセールを設置するかによってパフォーマンスが違ってきます。

そこで、当社としては、各造船所のコンセプトとして推奨されるセールを標準設定にしています。デイセーラーはもちろん、セルフタッキングジブですが、アルコナヨットはセルフタッキングとはしていないものの、ノンオーバーラップジブが基本です。それでデータ的に、同サイズの130%ジェノアあたりを持つヨットと比較してどうか? となりますが、比較ベースがスピードの予測としては不利になるかもしれませんが、この際、そのまま、標準でも比較計算してみよう。もちろん、セールを変えれば、パフォーマンスは違ってきますが、その造船所のコンセプト通りで比較してみたらどういう結果が出るのか?

速さの要因はセールエリアと重量だけでは無く、船型やその硬さも影響します。だから難しいのですが、まあ、セールエリアは数値できちんと出ますから、これだけでも参考データとして比較してみては?と思います。

小さなジブは、取り扱いが容易になります。それに、ジェノアは大きくても、上りには良くても、他のコースでは性能が落ちる。それなら、メインをでかくして、その分ジブを小さくして、そのほうがトータル的に考えて、コントロールし易い。それでもハイパフォーマンスなら、その方が良い。そういうヨットにあえてジェノアを持ってくる必要は無い。実際のデータ比較は、お任せいたします。是非、ご興味のあるヨットを、データ比較してみてください。

速ければ良いのはレーサーぐらいです。レーサーはスピードが命ですから。もちろん、レーティングの問題も大きいですが。でも、一般的な乗り方としては、乗り心地や、取り扱いや、バランスやいろいろな要素が絡んできます。我々はどこかに極端な性能を求めるわけでは無く、トータル的なバランスを求めます。

造船所がそのコンセプトにおいて、設定するセールは、そのヨットを理解するうえで、重要かもしれません。ですから、そのままで、いろんなヨットを比較する事は、データ的に有利、不利を出しますが、それでも、そのコンセプトを乗るという意味では、そのままの方が良いかもしれません。レース主体で無い限り。第一、レーサーは何枚ものセールを取り替えて走ります。まあ、最近はファーラーにする場合もありますが。

大きなメインは取り扱いは大変でしょうか? ジェノアに比べたらそんな事は無いと思います。メインセールはセルフタッキングです。大きなメインはその分の影響力は大きくなります。でも、ヨットの装備を考えましたら、メインセールの方がはるかにコントロールし易い。そのコントロールし易いメインの方が、ジブより大きいセールエリアを持つというのは、論理的に考えて、筋が通る話ではないかと思います。

メインセールをコントロールするに、メインシートだけでは無く、トラベラーがあり、バングがあり、バックステーアジャスターがあり、ヨットによってはカニンガムもあります。しかし、その気が無い時は
メインシート1本だけの操作でもセーリングは成立します。だから、ピクニックセーリングなら、メインシート1本で、何も、全部を駆使しなくても良いし、走ろうと思う時は、いろんな艤装を操作する事もできる。

それに引き換え、ジェノアは、ジブシート操作と、トラックの前後移動。そのトラックも、コントロールラインを持たない限り、デッキに行って、いちいち手で動かす事になり、しかも、シートテンションがかかっている時は動かせない。さらに決定的なのは、ブームを持たないジェノアは、風向に対して、適切な角度に設定できる幅が少ない。上りのみです。

ということは、同じセールエリアなら、メインが大きい方が良いし、操作性も良いし、簡単操作でもある。良い事ばかりです。但し、メインシートがコクピットに来ます。これが邪魔でしょうがない? それはまた別問題。クルージング主体で、メインシートが邪魔なら、仕方ありませんが。でも、邪魔と感じないなら、こちらのほうがコントロールはしやすいし、セーリングを楽しむ場合にも良いかと思います。

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