第八十五話 小さいジブは定番になる?

セール面積はただ大きければ良いというわけでもありません。性能と全体のバランス、そしてそれを取り扱う側の操作性という問題もあります。昔のヨットに比べますと、確実に船体重量は軽くなったと思います。しかし、それでも、水線長から来るハルスピードというものに縛られている事には変わりなく、ただ、同じ風速においては、確実にスピードは速くなったと思います。

我々が一般的に遊ぶ場合、風速10m前後以下という事になろうかと思います。重いヨットでも、風が強く吹けば良く走るとは言うものの、風速15mや20mを想定する事はありません。重いヨットに大きなセールを設置してという方法もあるでしょうが、取扱いの面から言っても、それはナンセンスと言わざるを得ません。強風においてはセールをリーフすれば良いという理屈もありますが、できればフルセールで走れる方が良いかと思います。

技術は進化していきますが、取り扱う人間側としては、艤装の助けは借りるものの、やはり、取り扱いのし易い範囲というものがあるのではないかと思います。スピードを求めて、より軽く、より強くと技術を進化させながら、でもやっぱり乗るのは人間ですから、取扱いという面を考慮しなければなりません。

130%や140%のファーリングジェノアというものが定番だった時、セール面積としては、メインセールよりもジェノアの方が大きかった。考えてみましたら、ジェノアというのは、上りには有効であるものの、落としていけば効率は悪くなる。それも、メインセールのようにブームがあるわけでは無いからです。コントロールできる範囲が少ないセールです。

それに比べて、メインセールはいろんな装備があって、いろいろコントロールできる範囲が広い。だから、上りにも下りにも使えるセールです。それなのに、ジェノアの方が大きいというのは、理屈から言っても合わないような気がします。大きなジェノアは、人間側の負担によって補われてきたのかもしれません。単純に大きなジェノアの方がセール面積が広い分速く走れるという理屈。

でも、ヨットの性能が上がってきた今日、今度は人間側の事も考えるようになってきた。マストの位置を前側に移動させて、ブームの長さを長くし、一方でフォアステーからマストまでの長さは短くなる。つまり、上りも下りも使うメインセールを大きくして、その代わりジブを小さくする。コントロールし易いメインセールが大きくなって、ジェノアは小さくなっていくのは当然ではないかと思います。

ジブセールの影響度を低くした。その代わりメインセールの影響度を高くです。それゃあそうです。メインセールの方がコントロールの範囲は広いわけですから。そこで、さらに大きなジェノアを展開すると、またより多くを人間側が負担する事になります。レーサーはレーティングさえ無かったらそうしたいのかもしれませんが。また、セール面積が大きくなると、それに対してヨットの安定性も高める必要があります。結局はいたちごっこになる。

ハルの性能が上がってきた以上、人間側の操作性という面から見ても、小さなジブという考え方は、今後セーリングを遊ぶという事においては良いのではないかと思います。タッキングのし易さ、それに強風時に風下側のシートウィンチを操作する事を考えれば、それをメインでやった方がはるかにやり易い。

さらに、ダウンウィンドを考えても、小さなメインに大きなジェネカーというより、大きなメインに小さなジェネカーという組み合わせの方が扱いはし易い。クルー不足の時代に則した考え方とも言えるのではないでしょうか?

これからは、大きなヨットでも、二人で充分に操作ができる事、楽に、そういう必要性はあるだろうと思います。できればシングルが可能なら尚良いという時代になる。究極的にはシングルを可能にする方向だろうと思います。だからバウスラスターが有効になり、ジョイスティック操作による離着岸が有効になる。その方向性で言えば、大きなメインと小さなジブというのは定番になるのではないかと思います。

メインセールはセールプランで決まってしまいますが、ジブセールはオーナーの都合で変える余地も残される。小さくしても、大きくしてもオーナー次第です。でも、小さなジブを基本に考えるようになると、ぐっと操作性は良くなる。小さなジブはきっとこれから定番化してくのではないかと思います。

昔ですが、セルフタッキングジブが何故流行らないのかと考え、このTALKにも書いた記憶がありますが、これからは増えていくのではないかと思います。

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