第七十四話 デイセーラー的思考

1990年にアメリカでアレリオンが出てきてから、徐々にセーリングへの志向が変わってきたのではないかと思います。レースという行為があり、クルージングという行為がある。レースを楽しむレーサーがあり、クルージングを楽しむクルージング艇があります。そして、その両方に及ぶ中間的なレーサークルーザーがあります。

そこに、レーサーでも無い、クルージング艇でも無いというヨットが出現して、純粋にセーリングを最も味わえるヨットとして、デイセーラーが登場します。それは、クルージングとレースの間を埋めるようなアイデアで、セーリングそのものを楽しもうというものです。

そこに出てきたデイセーラーは、セーリングを中心に、気軽さと高い性能を提供しました。レースをする為とも考えなかったし、クルージングも考えなかった。純粋に気軽にセーリングを楽しみましょうという事です。但し、レーサーとクルージング艇のギャップを埋めたアイデアではありますが、レーサークルーザーとは異質のものです。両方できると考えるのでは無く、両方考えなかった。セーリングに、より集中しています。

このアイデアは、新しい乗り方の提案でもあります。レーサーでも無い、クルージングでも無い。そういう意味で、デイセーラーの出現の意味は大きいと思います。何故なら、従来、セーリングはついでという意味に近かったかもしれません。レースしない時、クルージングしない時の暇つぶし? そこにセーリングそのものにスポットを当てたデイセーラーが出てきて、セーリングそのものを強調しました。

従って、デイセーラーは、セーリングをひとつのジャンルとして、暇つぶしでは無く、レースとクルージングと対等の立場に押し上げます。という事は、レーサーがあって、クルージングがあって、別にもうひとつセーリングと言うジャンルを成り立たせます。まあ、実際はどうかはわかりませんが、私の中では成り立っています。セーリングは、それだけで面白いと思います。レースでは無くても、クルージングでは無くても、それだけで面白い。

レーサークルーザーというものがありますが、これは大きな意味になり、もっと中身を見ますと、レース/セーリング、 セーリング/クルージング、その両方を包括するレース/セーリング/クルージングという風に考えられます。レーサーをクルージングに使う事は可能です。しかし、敢えて、ここで、セーリング/クルージングを独立させてパフォーマンスクルーザーと考えます。

このパフォーマンスクルーザーとは、デイセーラーを含み、セーリング/クルージングを含む。コンセプトはセーリングそのものを楽しむ事、それに値する性能がある必要があります。そして、時にクルージングを楽しむ性能もある。この時のセーリング性能はレーサーの如き性能を意味するわけでは無く。シングル/ダブルハンドのようなショートハンドで性能を楽しむ事ができる事。クルージングにおいては、外洋の可能性はあっても、敢えて、沿岸クルージングまでとします。

デイセーラーはシングルには最適です。でも、クルージングとなりますと、ウィークエンド程度を想定、それをもっと広げたヨット、ダブルハンドにして、キャビンも広くなり、ロングのクルージングを容易にするものとしてセーリングクルーザーがあるとします。こういうコンセプトをパフォーマンスクルーザーと呼ぶ事にします。

デイセーラーの出現で、おおきなメインと小さなジブという組み合わせが実に楽であるし、それでいて、スピードを楽しめ、滑らかさを楽しめ、レスポンスの良さを楽しむ事ができました。このアイデアをそのままセーリングクルーザーにも応用しようと考え、性能の高いヨットに、同じように大きなメインと小さなジブ(セルフタッキングも含めて)とするのは悪く無いと思います。

こういうヨットでセーリングを楽しむにも、求めればきりは無いのですが、少なくともショートハンドが基本ですから、スタビリティーが高いもの、低重心は欠かせないのではないかと思います。硬いハルなら滑らかさを感じますし、デザインさえ良ければバランスの良さも感じます。

兎に角、クルージングは問題無い。そこで、セーリングをどう扱うかです。日常に、いかに気軽になれて、いかに面白いセーリングを堪能できるか? そこを考えていきたいと思います。これからは、パフォーマンスクルージング艇と思っています。

これにでかいセール張って、クルーを増やしてレースする事だって可能です。それはオーナーの自由ですが、パフォーマンスクルージングでは、レーサーのスピードを求めてクルー増やすより、クルーを少なくしてでも、楽なセーリングを求めます。それでも、元々のポテンシャルは高いですから、クルージング艇のそれとは全然違うと思います。

別荘的な使い方をしない我々にとって、何を楽しんでいけば良いのかと考えますと、やはり気軽なセーリングではないかと思います。シングル、ダブル、ショートハンドを基本に、日常セーリングの妙を楽しみ、時にショートやロングのクルージングに出る。最も多い使い方になるのではないかと思います。という事で、パフォーマンスクルーザーというジャンルを想定しました。これは、一般に使われる同じ言葉とは違います。ここでは乗り方のコンセプトとして使っています。

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