第三十八話 微妙な差

いろんなヨットがあり、それぞれの性能を持ちますが、その差は、実際はそれ程大きくは無いのかもしれません。速い。遅いとか言いますが、例えば、高速で後ろの車が追い抜いて行く時、かなりのスピード差を感じます。でも、ヨットの場合、実際はそれ程の差はありません。しかし、それでも、さっと追い抜かれたと感じてしまいます。

つまり、それはヨットの場合、感覚的に強調されるのではないかと思います。7ノット、8ノットのスピードが速いと感じ、でも、時速13Km〜15km程度、車なら徐行している程度です。それをどういうわけか人間は感覚的に速いと感じてしまいます。追い抜かれたとしても、そのスピードの差は、わずかなものです。でも、感覚的には大きな差を感じてしまいます。逆に言いますと、だからこそ面白いとも言えます。

マリーナに車で高速を走ってくるとすると、次にヨットに乗りますと、そのスピードは10分の1になります。でも、ヨットの方が、スピード感を感じます。つまり、どういうわけか、誰が乗っても、自然に、いろんな事が普段の生活で感じるよりも増幅してしまう。感覚が、普段の10倍になってしまう。
ここがセーリングのポイントかもしれません。

ヨットがちょっと傾いただけで、ひっくり返るかと思う程感じてしまいます。でも、実際は、たいした角度では無い事が多い。30度もヒールしようもんなら、特に初めてなら、そう感じてしまう。わずかな、加速や減速も、波に当たる感触も、ちょっとしたエンジン音の変化にも、普段の生活なら解らないかもしれませんが、それが自然に感じてしまう。考えてみたら不思議なものです。

という事で、セーリングをしたら、普段の10倍感覚が鋭くなる。まあ、10倍というのはいい加減な数値ですが、でも、感覚は増幅されていると思います。そういう事を考えましたら、わずかな変化が10倍に感じるとしたら、それがヨットのセーリングの特性であるなら、そこを楽しむというのが、セーリングなんだろうと思います。

通常のクルージング艇の走りと、ハイパフォーマンスと、データで見る差はわずかかもしれませんが、感覚的にはその10倍違う。セーリングが感覚遊びだとするなら、この差は大きなものです。ステアリングにしろ、ティラーにしろ、握って、操作する時のわずかな感覚を感じとりますが、普段の生活では気になる程では無いかもしれません。もし、スピード差が1ノットもあろうものなら、感覚的にはとっても大きな差になります。そこを楽しむのがヨットかと思います。感覚の変化、違いですね。

わずかな重量差、セール面積の違い、バラスト比、そういうデータが、わずかであっても、感覚的には10倍ぐらい違うと思っても良いかもしれません。という事は、誰もが、セーリングするだけで10倍鋭い感覚になっている。

だから、ちょっとした加速感とか、滑らかさを感じたりします。逆に、ちょっと波が高くなっても、おおいに感じます。セーリングとはそういうものなんでしょうね。ならば、そこを遊ばない手は無い。ヨットはそれが特性です。その感覚的違いを遊ぶのがセーリングです。

そこで、別荘的遊びを主としないのであれば、セーリングを遊びましょうと言ってきました。シングルハンドのセーリングを楽しむなら、デイセーラーが何と言っても良いと思っています。もし、クルーが一人でも居るなら、そして、たまにロングのクルージングも楽しまれるのなら、クルージング艇の中でもハイパフォーマンスのクルージング艇をと考え、現在、ある造船所にコンタクトしております。
まだどうなるかは解りませんが、もし、日本に紹介できるようになればと思っています。

ハイパフォーマンスで、尚且つ、2人居ればセーリングを楽しめる。その為には、高い安定性が必要で、操作性の良さが必要で、グッドフィーリングを得る為には、硬いハルも必要になります。そういうヨットです。

本格的に世界を回るような外洋性は、頑丈なだけでは無く、ある種の鈍さ、モーションの緩やかさもあった方が良いので、そういう意味では向かないと思いますが、通常の一般クルージングにおいては充分すぎるぐらいあると思います。

セーリングを楽しむのは微妙な差が増幅されますから、大きな差に感じます。ですから、同じように見えて、随分違う事になります。のんびりセーリングを楽しめば良いと思われる方でも、実は、普段の10倍ぐらいは感じておられます。事実が、数値が10倍違うのでは無く、フィーリングが10倍ぐらい違う。そこを意識すれば、もっと違うのが解る。大事なのは、事実よりも感じなのではないか?どんな感じを得られるかではないかと思いますね。意識すればするほどに、その微妙な違いは誰でも解るようになり、そこが面白さをより多く得るコツではないかと思います。

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