第三十四話 ヨット文化

ヨーロッパの住宅は、石でできていて、数百年は持つらしい。そして、ペンキ塗りかえたり、内装変えたりして、何世代にも渡って使われます。中古住宅を買うという事に、違和感というものは無いそうです。住宅に関しては、日本とは事情が違う。とは言っても、ほんのちょっと前までは、木造ではあるものの、日本の家屋は長持ちだった。しかし、西洋スタイルの生活様式が、どんどん入ってきた関係上、住みにくいと考えたかもしれません。

さて、ヨットはどうか? 昔は、長持ちヨットが当たり前で、それを何代に渡って乗り継いでいくという考え方が主流だったのだろうと思います。お金持ちが新艇を造り、それを、中古として、徐々に人々に渡っていく。ヨットはそれに充分耐えうるものだったと思います。

しかしながら、そこに新しい市場が投入されていく。それは、外洋なんかに行かなくて良いという沿岸用のヨット。そこまで頑丈じゃなくても良いとなれば、構造や工法も変わります。それに何と言っても、価格が安くできる。この事は、市場拡大に大いに役立ったのではないかと思います。

こういう流れを見ますと、今日の大勢を占める使い方としては、大海を渡るでは無く、沿岸でのクルージングと別荘という考え方になるかと思います。それに充分、今日の沿岸用ヨットは寄与していると思います。例え、そんなに頑丈で無くても、別荘的使い方なら、今日のFRPは長持ちしますし。
激しく乗らなきゃ、そう痛みも無いでしょうし。

住宅にそんなにお金がかからないとしたら、ヨットだって買えるようになる。それを別荘代わりと考えれば、そういうライフスタイルを満喫できる。デンマークから来た方の話によりますと、別荘を持つのは普通の事で、それが別荘が良いか、ヨットが良いかという選択も珍しく無いそうです。

つまり、ヨットをヨッとトして持つ事に重きを置くか、或いは、別荘に重きを置くかで選択はあるんだろうと思います。そうなりますと、日本において、別荘的な使い方という事をしない限り、ヨットはヨットとしての存在になりますから、ヨットに対する考え方は違って当然という事になります。

これらの事は、欧米でのキャビン拡大競争というのが、納得できます。現代のキャビンヨットは、近場のクルージングをする人達から、別荘的に使う人達までをカバーしている。そのヨットを、クルージングにしか使わないのが日本という事になります。それならば、そこまでキャビンは不要ですとも言えますが、そういうヨットがなかなか無い。それは仕方ない。或いは、これから先、別荘的にも使いましょうとするかですね。

欧米人にとっても、別荘的に使わないで、セーリングを主にという事であれば、日本には入っていないが、様々なヨットがあります。ノルディックフォークなんかもそのひとつだろうと思います。そういうヨットを日本に持ってきたら? と考えないではありませんが、でも、なかなか難しい。
目が慣れていないし、個性的だし、そういうヨットが日本に根付くには、まだまだ時間かかかるような気もします。

日本人が別荘的使い方に慣れるか、或いは、そういうヨットが入ってくるか、どっちが先なんでしょうか?こういうのがあるから、欧米では、小型ヨットも存在できるのかもしれません。別荘的使い方が主で無ければ、外洋でも無ければ、小型艇でも十分だという考え方になるのかもしれません。むしろ、小型艇の方が、近場をセーリングするには面白いとも言えます。

という事は、時を経れば、日本で別荘的に使わないと考え、それを理解した人達が出てくれば、そこから再び小型艇の進出も考えられるかもしれません。そういう時を待たねばならない。そこまで行けば、日本のヨット文化というものが、根付いてきたと言えるかもしれません。そして、一方では、別荘的使い方を上手にやる人達も出てくるでしょう。

という事で、ヨットは、レース、沿岸クルージング、別荘、セーリング、外洋クルージングとに大きく分けられる。そして、欧米では、この別荘的使い方がかなり多いように思えます。別荘的だからこそ、マリーナには陸電が必要だし、水が必要で、その他、ケーブルテレビや電話線もきている。まあ、電話は携帯にとって代わられてきていますが。

日本のヨット文化は、今後、セーリングに向かうか、或いは欧米のように別荘的使用に向かうか?
この別荘的な使い方がどこまで浸透するか? そこにかかっているような気もします。それは、一般社会が、休みという事をどうとらえていくかになりますし、一朝一夕には変わりません。時間の経過を待たねばならない。誰かが変えるものでは無く、時とともに勝手に変わっていくものだろうと思います。今のところは、この別荘的使用が、どうも日本には合っていないと思えます。これが主にはなっていないという意味です。しかし、ではセーリング方向に向かっているかと言いますと、それも無い。どうも大きなキャビンをどう扱って良いのか?その岐路にあるような気がします。

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