第五十九話 セーリングクオリティー

物には品質という表現をします。そして、もちろん、セーリングにおいてもその質があります。スピードは性能というジャンルに入れて良いと思います。しかし、例えば、スピードは同じであっても、その走り方に質を感じさせます。実に柔らかいとか、実に滑らかだとか、そんな感じを受ける事があります。

性能には、スピードとか、それに対する安定感とか、上り角度とか、そういう物がありますが、それとは違って、走る感じに、ふらふらしないレールの上を走るような安定感、シルクのようなスムース感、加速感、レスポンスの良さ、そういうフィーリングを得る事があります。

これらは恐らくデザインのバランスの良さ、またそれを支える船体の堅さ、そういうものから来るのではないかと思います。そして、それらを感じる時の気持ちの良さは、スピードを得た時とは、また別の快感となります。これらは、数値のデータとしては表せない質であります。

セーリングはフィーリングだと、何度も言ってきましたが、それは、レースならスピードが重視されますし、極端な言い方をしますと、速ければフィーリングは二の次でも良い。クルージング艇は、高い波に対する強さと安定性です。そして、セーリングを楽しむなら、どんな感じがするのか。これが重要かと思います。

もちろん、スピードも、安定性も、波に対する強さも必要です。でも、それらから何を感じるか?その感じの質が問われます。データとして出ない分、最も難しい事だと思います。何をどうデザインし、どういう作り方をすれば、どういう感じになるという計算はなかなかできないと思います。それは、デザイナーや造船所の長年の経験から生み出されるものかと思います。

セーリングには、すべてを要求します。スピードも必要です。速いスピードでの感じはどうなのか、その時の安定性はどうか、直進性はどうか、波の当たり具合はどうか、ひとつひとつが独立せずに、すべてを統合して得られるフィーリングがあります。波が高い時、風が強い時はどうか?

弱い風でも良く走ってくれる方が良い。でも、強い風でも安定して走ってくれる方が良い。そして、その時に何を感じるかが重要な事であります。データとして出てくる性能以外で、感じる何か?それがセーリングクオリティーだと思います。それを感じた時、良い感じを得られた時、何とも言えない良い気持ちになるわけです。これぞ、セーリングの醍醐味の核ではないかという気がします。

クルージング艇でも、時化の中を走りながら、全く不安を感じさせないという事があります。時化ですから、楽しいわけじゃ無い。辛いんです。でも、不安が無いという事です。頼りになる、オーナーを助けるヨットです。信頼できるヨットです。

セーリングにしても、クルージングにしても、こういうヨットに出会えると、惚れてしまいます。気持ち良くしてくれるヨットです。もちろん、いかなる状況でも完璧はありえません。しかし、確かに、そういうヨットがあります。ベターがあります。

考えてみたら、当たり前の事で、楽器だって同じ形をしながら、音の質が違いますね〜。それと同じ事かと思います。

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