第五十話 トップ20%

どんなヨットでも、ジブシートとメインシートだけの操作で、おそらくそのヨットの80%ぐらいの性能は出るのではないかと思います。ピクニックセーリングはこの80%で遊ぶ事になります。今ここにふたつのヨットがあるとして、各ヨットの性能の80%で走るとします。同じ80%でも、そのヨットの能力の高さによって、帆走の質が異なります。80%の高さが、それぞれ異なる事になります。

ピクニックを超えて、セーリングの世界に入るとしても、トップ20%の違いで、例えばスピードが2倍になるという事はありません。でも、このトップ20%のセーリングは、また質が異なるし、フィーリングが違ってきます。わずか20%ですけれども、例え10%であっても、質が違い、そこから受けるフィーリングも違ってきます。実は、これは、その感覚を受け取る準備ができてるかどうかによるのではないでしょうか。準備が出来てる人は感じて、そうで無い人には解らない。同じピクニックセーリングでもそうかもしれません。

セーリングをどこまでやるか?楽しさ、面白さをどこに求めるかになります。80%でも、充分に能力があるなら、かなり楽しいセーリングを味わうこともできます。

20%は少し難しい世界です。微妙さ、精妙さが問われる。野球のピッチャーなら、ど真ん中のストライクでは無く、コーナーを投げ分けたり、変化球を投げたり、緩急をつけたりという世界でしょう。
でも、草野球であるとして、ある程度できるようになりますと、コントロールをつけたいと思うし、カーブなんか投げれるとちょっと自慢です。それと同じで、ピクニックセーリングを楽に楽しめるようになりますと、ちょっと上の世界を覗きたくなります。それが面白さであり、新たな刺激でもあるからでしょう。

ピクニックをしていても、いろんな風の状況がありますから、ちょっと上を知っていると、それだけでも、セーリングの対応がちょっと違って、より快走になったりします。ですから、ピクニックで充分と言われる方でも、もし充分にピクニックを楽しまれるようになりますと、きっと上のレベルを覗きたくなるのが自然であると思います。

20%を覗いた人は、その後、ピクニックをしている時でさえ、かつてとは違うでしょう。している行為は同じでも、もう気分が違っています。得た感覚が知らない間に進化しています。体がそのフィーリングを覚えています。ですから、わずかな違いが感じられたりしますね。その感覚は失われる事が無いかと思います。

楽しさはセーリングという行為を通じて、外界を楽しむ。でも、面白さは、自分の感覚、感じる事ができる感じに面白さがあるのではないかと思います。端から見てますと、行為にそう極端な違いがあるわけでは無いのですが、でも、感じる内容はかなり違ってくる。それが面白さ。それは特に、トップ20%にあるように思えます。

ティラーに神経を集中するなら、それはトップ20%の世界。トラベラーを使って、セールツウィストをコントロールするなら、20%の世界。それが行為だけで、変化を何にも感じないなら、面白くも何とも無いのですが、もし、何らかの変化を感じ取れたなら、それは新しい世界、20%の世界を感じた事になる。ここからは、面白さの世界ですね。良いヨットは、そんな感じを、楽に感じさせてくれる。

誰もがすべき事ではありませんが、ピクニックを充分楽しんだら、そうなっていくんです。より刺激を求めていくのが、自然な人間の有り方ですから。ある方、左舷と右舷の走りがどうも違うようだと言われました。これは大きく違うわえでは無く、微妙な違い。そういう事が自然に解る、感じるというのが、面白さ。解る自分が嬉しくなります。

セーリングというのは、そんなもんなんじゃないかな〜? ピクニックではそんな事は気にしません。それで良いと思います。楽しみはまた別なところにありますから。でも、一旦、20%を覗いてみますと、そういう事が解るし、ピクニックの時も解るようになる。要は自分の感知能力が向上したという事になります。

いくら難しい理論を知り、難しい調整ができるにしても、その違いを感知する能力が無ければ、面白く無い。でも、20%の世界を覗いてみようかな、と思った瞬間、頭脳と感性が自動的に準備しますから、その違いを感知しようと準備しますから、それで、少しづつ感性が磨かれていくんだと思います。つまり、そう思わないと、違いを感知できないのかもしれません。

つまりはオーナー次第、ピクニックセーリングを楽しむも良し、20%も楽しみたいと思うも良し、どっちでも良い。自分の楽しさ、面白さが優先です。

実は、ピクニックセーリングであっても、その感覚が自然に身についてしまいます。その感覚は、そのヨットの性能による感覚です。重いヨット、鈍いヨット、軽いヨット、レスポンスの良いヨット、堅いハルのヨット、柔らかいヨット、スタビリティーの高いヨット、低いヨット、性能を表すにいろんな表現がありますが、たとえ、ピクニックセーリングであっても、そのヨットの性能が自分の感覚になります。ピクニックではどんなヨットでも楽しむ事ができます。気楽に出す事さえできれば。

でも、感覚を気にした時、ヨットによってフィーリングが違います。面白さとは、このフィーリングの違いだと思います。ですから、どのヨットがどんなフィーリングを与えてくれるかが、その違いを生み出す事になると思います。セーリングはフィーリングの世界!

ピクニックは行為に重点を置き、行為を楽しむ。20%は、それに加えて、フィーリングの世界を混ぜ合わせていくのではないかと思います。ピクニックセーリングをしていて、たまたま快走感を味わったら、それが20%の入り口です。それを意識して、もっと感覚を得ようとするなら、それは20%に入ろうとする事かと思います。ピクニックとは違う世界です。もちろん、重なり合った世界。単独で20%があるわけではありません。

トップ20%と書きましたが、上の方にあるのでは無く、全体にあり、自分にとってより良いフィーリングを得ようとする世界。それを気にするか、しないか。でも、ピクニックを充分に楽しんだら、誰もが自然にそういう世界に入っていくんだろうと思います。ちょっと良い感じを得たら、誰もが嬉しくなりますからね。もっとと思うでしょう。もし、そうならないのなら、多分、ピクニックをまだ充分楽しめていないか、心が他にあるか、ではないかと推測します。他にあるから、ピクニックも充分楽しめないかもしれません。

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