第四十六話 ピクニックの時代
| クルージングという事葉を聞きますと、あたかもレース以外の全てを含むような感じがしないではありません。ちょっと出してセーリングしてくる。エンジンで走って、向こうの島まで行ってくる。長い、長い旅をする。全てクルージングの範疇に聞こえます。でも、１、２時間のセーリングを楽しむ事と、長い旅を楽しむ事は、全く質が異なります。それをひとつのクルージング艇でしようという所に少々無理があると思われます。でも、レース以外は全てクルージングとしてしまったところに、勘違いがあるような気がします。 本来、近所で遊ぶヨットと、長い旅をするヨットでは別に分けて考えるべきなのだろうと思います。求める要素が異なってしかるべきだと思います。我々が良く見る大きなキャビンを持つヨットは、旅に使って、その本領を発揮するものです。でも、旅はそうは頻繁にしない。それどころか、多くの場合は、ピクニック的使い方なのではないでしょうか？日帰りとして使われる事が殆どなのではないでしょうか？それもレースでは無く、家族や仲間と楽しく過ごしたい。多くの方々が、そういう楽しさを求めておられるのではないかと思います。ならば、それはクルージングでは無く、ピクニックと称した方が解りやすい。 日帰りから、せいぜい、１泊、２泊、その範囲内で、相当多くの方々が楽しむ事ができるのではないかと思う次第です。そこを中心に考えても良いのではないかと思います。それを気軽に、簡単に一人で操作、実行できる事が必要です。それなら、オーナーも気軽に、誰でも誘うことができます。 この一人操作を、一般クルージング艇は難しくしてしまう。本来、シングルで乗る想定がありませんから。可能ではあっても、簡単、気軽か？という問題は残ります。 さらに、ピクニックになりますと、動けば良いというよりも、快走感、楽しさ、安定感、レスポンスの良さ、いわゆる帆走性能が高い方が楽しさを増幅させます。キャビンが楽しいわけじゃない、帆走が楽しいのであります。旅をするのとは違うわけですから。 これからは、クルージングと分けて、ピクニックという用途をお奨めしたいと思います。オーナーはシングルハンドを気軽できる方が良い。ピクニックがもっと気軽になります。誰でも誘えます。１日に２，３時間のセーリングから、せいぜい１泊、２泊程度までを主に、いかに気軽に遊ぶことができるかが、ポイントになります。これらができれば、もっともっと楽しめるようになるのではないかと思います。 以前、デンマークの人の話ですが、夫婦で、夕方からワインを１本もって出るというのが流行っているという話を聞いた事があります。大きなヨットを尻目に、気軽に楽しむこの有り様は、ヨットという遊びの成熟度を感じさせます。ヨットというと、遠い旅を思い浮かべるかもしれませんが、それも良いが、成熟したヨット社会というのは、どれだけ気軽にヨットと付き合うことができるかによるのではないかと思います。遠い、近いは関係無い。そういう気軽な付き合いが成熟する事によって、その中から、世界に出る方の確率も高くなるでしょうね。 ピクニックで家族と遊ぶ楽しさを得る事と、もうひとつ、オーナーにとっては別の楽しみ方も残されます。シングルで簡単に操作ができるのですから、例えば、家族が来ないような日には、ピクニックと同じ時間、同じ海域であっても、セーリングという行為そのものを、もっと深く遊ぶやり方も残されています。もし、その気になるなら、そういう時は、セーリングに集中して、もっとレベルの高いセーリングを目指すという事もできます。これはもうオーナーだけの世界、特権です。これはピクニックとも質の違うものです。そうしなければならないわけでは無く、義務では無く、権利があるという事です。ある種、難しさがあり、だからこそチャレンジ性があり、面白さもあります。これらはクルージングではありません。セーリングです。 そこで、あらためてここで申し上げますが、シングルハンドをマスターして、ピクニックをおおいに楽しみましょう。奥さんを、家族を、親戚を、孫を、友人を、彼女を、マリーナでであった人を、誰でも気が向いたら誘って、ヨットの楽しさを分かち合って下さい。この分かつところに、楽しさがあると思います。何の準備も必要無く、気軽に、ちょっとそこまでです。 そして、もうひとつ、もしオーナーが望まれるなら、シングルの時は、深いセーリングに面白さを求めてみましょう。セーリングの奥深さを味わうなら、それはみんなで遊ぶピクニックとは違う面白さになると思います。集中した神経、良い緊張感、微妙な変化さえ、感じる事ができる研ぎ澄まされた感性、もっとセーリングを学んで、より良いセーリングの感触を得る為に、セーリングをします。 このふたつの世界を使い分けて、楽しさと面白さを得る。こういう考え方はどうでしょうか？クルージングとは違う魅力があると思います。夢もありますよ。旅だけが夢ではありません。ロマンもあります。いかにセーリングの質を上げるか？腕を上げるか？それによってセーリングから得られるフィーリングも変わります。腕の上達でセーリングが変わると同時に、それを感知する自分の感性も進化していきます。やっぱりロマンがあるでしょう？ 男はロマンチスト。現実の楽しさだけでは生きていけません。ですから、このピクニックとセーリングを使い分けて、両方を楽しんではいかがでしょうか？ファミリークルージングならぬ、ファミリーピクニックとセーリングです。どちらもシングル操作が良いと思います。それで、そういうシングルハンド仕様というのは、デイセーラーという、いつもの結論になるわけです。特にジブブームを持つ、アレリオン２８、３３，３３S,それにハーバー２５等はお奨めなのです。アレリオン３８でもシングルはもちろん簡単なのですが、サイズ的に３８ですから、これは長さという事が、各個人にどれだけプレッシャーをかけるかという個人的な受け取り方の違いが出てくると思います。その点、シングル仕様の３０フィート前後ぐらいまでなら、殆どの方々が気軽さを持っていただけるのではないかと、思います。 |